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10月6日の日本民話
ほらふき甚兵衛
埼玉県の民話
むかしむかし、あるところに、甚兵衛(じんべえ)というほらふきがいました。
ある日の事、
「大変だ! 大変だ! この先の池で、お殿さまが死んでいるぞ!」
と、甚兵衛が大声で言うので、殿さまの家来たちが青くなってかけつけてみると、池には殿さまガエルが一匹死んでいるだけでした。
「なんと悪質なほらを! ゆるさん」
家来たちはおこって、甚兵衛さんをお城に連れていきました。
ところが殿さまはおこるどころか、その話しを聞いて大笑いです。
「よいよい、なかなかおもしろい男じゃ。よし、わたしの城にいる三人のうそつき名人とうそくらべをしてみろ」
そこで甚兵衛は、殿さまの前でうそくらべをすることになりました。
呼ばれた三人はいつもうそくらべの勉強ばかりしているので、とてもうそが上手です。
「ふん、こんな田舎者(いなかもの)に負けてたまるか」
三人とも、こわい顔で甚兵衛をにらんでいます。
「では、まずわたしから」
一番めの家来が、言いました。
「わたしの国には、一万年もたった大きな木があります。枝は国中に広がって、雨がふってもカサがいりません」
すると、二番めの家来が言いました。
「わたしの国には、富士山をまたいで日本中の草を全部食べてしまう、とても大きなウシがいます。琵琶湖(びわこ)の水なんかひと飲みでなくなってしまいます」
続いて、三番めの家来が言いました。
「わたしの国には、海で顔を洗う大男がいます。大男が海の水を手ですくうたびに洪水(こうずい)が起こり、国中の家が流されてしまいます」
それらの話しを聞いた殿さまは、大喜びです。
「よいよい、三人ともなかなかおもしろいぞ」
三人の家来は、自慢げに胸を張りました。
「さて、そこの男、お前の話はどうじゃ」
「はい、では」
甚兵衛はもう一度すわりなおすと、殿さまの方を見て言いました。
「わたしは、胴のまわりが三百里(→千二百キロほど)もあって、たたけば、世界中に鳴りひびく大太鼓(おおだいこ)を作りたいと思います」
「そんなに大きな太鼓を、どうやって作る?」
家来の一人が、甚兵衛にたずねると、
「まず胴は、一万年もたった大きな木で作り、太鼓の皮は富士山をまたぐウシの皮を張り、それから海の水で顔を洗う大男に太鼓をたたかせます」
「なるほど、これはまいった」
三人の家来は、思わずうつむいてしまいました。
「うそつきくらべは、その男の勝ちじゃ」
殿さまは甚兵衛に、たくさんのほうびをあげたという事です。
おしまい