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11月23日の日本民話
もんじゃの吉
岩手県の民話
むかしむかし、南部の国(なんぶのくに→岩手県)のあるいなかに、「もんじゃの吉(きち)」と、いう、とんちのきく男がいました。
ある日の事、吉が山を歩いていると、キツネたちがあつまって化け比べをしながら話しをしていました。
「長者(ちょうじゃ)のせがれが嫁を探しておるそうだが、なかなか見つからんらしい」
それをきいた吉は、いいことを思いついてキツネたちにいいました。
「やあやあ、キツネどん。うまく化けるもんだなあ。実は長者のせがれが嫁をさがしとるんじゃが、お前たち、花嫁と嫁入りの行列(ぎょうれつ)に化けてくれないか。長者にはあぶらあげでもあずきのごはんでも、たくさん用意させるから」
それを聞いたキツネは大喜びで、吉の話しに賛成しました。
それから吉は、長者の屋敷へ飛んでいって、
「いい嫁さんが見つかったから、おれが世話をします。あぶらあげやあずきごはんを用意しておいてくれ。今夜にも、さっそく嫁入りさせるでな」
喜んだ長者は、さっそく準備にとりかかりました。
さてその夜、吉は仲人(なこうど→結婚の仲介をする人)になって、嫁入り行列の先頭にたちました。
花嫁道具を運ぶ男たちや花嫁の親戚(しんせき)の人たちが、ちょうちんを手に長者の家にむかいました。
「大した花嫁行列だ。ごくろうだった。さあさあ、あがってくれ」
長者の家の座敷には、ごちそうやお酒も用意しており、大変にぎやかな結婚式になりました。
吉はさんざんごちそうになって、おみやげもたくさんもらってかえることにしました。
行列の人たちも、ひきあげました。
次の朝、長者の屋敷は大さわぎになりました。
家中がキツネの足あとだらけで、花嫁も見あたりません。
「さては、キツネにだまされたか。もんじゃの吉め、キツネをそそのかして、よくもこのわしにはじをかかせたな!」
長者は、吉の家へ飛んでいって、
「やい、インチキ仲人! ごちそうと酒のお金をかえせ!」
と、カンカンに怒りました。
ところが吉は、すました顔で、
「へっ? 何の事か、身におぼえがありません。おそらくキツネのやつが、わしにばけてイタズラしたんでしょう。近ごろのキツネは、悪知恵がはたらきますからね」
「ぐぐぐっ・・・」
吉は見事、長者をおいかえしてしまいました。
おしまい