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12月25日の日本民話
大蛇と戦った男
熊本県の民話
むかしむかし、天草(あまくさ→熊本県の天草市)のある村に、熊蔵(くまぞう)というお百姓(ひゃくしょう)がいました。
熊蔵は背の高い大男で、大変な力持ちです。
ある日の事、熊蔵が村はずれの谷間にある畑にこやしをまいていると、山から六、七メートルもある大蛇(だいじゃ)がはいだしてきました。
大蛇は真っ黒な舌をペロペロとだし、まっすぐ熊蔵にむかってきました。
熊蔵は畑や家の庭先などで小さなヘビをいじめたりしているので、親分がうらみをはらしにきたのかと思いました。
熊蔵はあわてて逃げようとしましたが、畑の土に足をとられて、思うように逃げられません。
近づいてきた大蛇が熊蔵に大きな口を開けたとき、熊蔵はこやしのおけをかついできたてんびん棒をふりあげて、むかってきた大蛇を何度もたたきました。
ところがいくらてんびん棒で打ち付けても、鉄か石をうったような音がするだけで、大蛇にはまるで通じません。
熊蔵はてんびん棒を放り投げると、大蛇にいいました。
「まて、まて。ちょっとまて。おらには親もあれば兄弟もおる。これから家へ帰って、いとまごい(→別れのあいさつ)をしてくる。それから死ぬか生きるかの勝負だ。必ず戻ってくるから、お前はここでまっていろ。いいか、ぜったいに逃げるなよ」
大蛇は熊蔵の言葉がわかったのか、ひと休みするように、その場で長いからだをクルクルと巻いて、大きなとぐろを作りました。
さて、熊蔵は走って家に帰ると、大蛇のことを大声で口走りながら、刀を手にして畑へひきかえしていきました。
近所の人たちも、カマや棒切れを持って熊蔵のあとを追っていきます。
ところが畑についてみると、大蛇の姿は消えていたのです。
「おい熊蔵。大蛇はどこにおるんじゃ?」
「お前、ねぼけておったんじゃねえのか?」
はりきってやってきた者たちは、残念そうな顔をしていいました。
「おかしいな。キツネかタヌキに化かされたかな?」
ですが、山のかげから畑までの草木はなぎたおされており、大蛇が畑に現れたあとだけは、はっきりと残っていたという事です。
おしまい