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いぬのお話し 第 11 話
犬ぼえの森
秋田県の民話 → 秋田県情報
むかしむかし、サダ六という腕の良い猟師がいました。
猟師たちはそれぞれ自分たちの狩り場を持っていて、他人の狩り場で猟をする事はありませんでした。
しかしサダ六はとても腕が良かったので、特別によその土地で猟をしてもよいと言う許可書を、将軍さまからもらっていたのです。
ある春の事、サダ六は犬のシロを連れて猟に出ました。
シロはとても勇敢な犬で、相手がクマであっても果敢に立ち向かっていきます。
サダ六は、あっちの山、こっちの山へと獲物を探し回りましたが、今日はまだ一匹も獲物が見つかっていません。
「まあ、そんな日もあるさ」
サダ六が帰りかけようとすると、突然シロが、
ワンワンワンワン!
と、吠えたてて、やぶの中からカモシカを追い出しました。
「おおっ、これは大物だ!」
サダ六とシロはカモシカを追いかけましたが、カモシカもなかなか手強く、いつの間にかサダ六たちは、隣りの国の南部領に入っていたのです。
「よし、やっと追い詰めたぞ!」
サダ六は鉄砲のかまえると、
ズドーン!
と、一発でカモシカを仕留めました。
するとその音を聞きつけた南部の猟師たちが、怖い顔でやってきました。
「おい、見かけねえ奴だが、お前はこの国の者じゃねぇな」
「ああ。わしは、サダ六という猟師だ。獲物を追ってここまで来てしまったが、将軍さまから、どこの国で猟をしてもよいというお許しをもらっておるぞ」
サダ六はそう言って腰に手をやりましたが、お許しの巻物がありません。
「しまった。家に忘れてきた」
そこでサダ六は捕まって役人の取り調べを受けた結果、明日の夜明けに処刑と決まったのです。
「くそー! あの巻物さえあれば」
サダ六が悔し涙を流していると、どこから入ってきたのか、シロが牢屋に現われました。
「おおっ、シロー! 頼む、夜明けまでに家から巻物を持ってきてくれー!」
サダ六が言うと、シロはその言葉が分かったのか、すぐさま牢屋を飛び出して行きました。
「シロー、頼むぞ!」
それからシロは雪道をひた走りに走り、山を越え、谷を越え、十里の山道を走り続けました。
一方、サダ六の家では、女房が帰ってこないサダ六の身を案じて、眠らずにじっと待っていました。
そこへシロのワンワンほえる声が聞こえたので、女房があわてて戸を開けると、シロが飛び込んで来ました。
「シロー、何があったの? あの人は?」
シロは神棚の上にある巻物に向かって、狂ったようにほえ続けます。
それを見て、ハッと気がついた女房は、すぐに巻物を取るとシロにくわえさせました。
「シロ、お願いね!」
シロは再び隣りの国へ、休むことなく走り続けました。
だんだん空が白んできて、サダ六が処刑される時間が近づいてきます。
シロの足から血が出てきましたが、シロはかまわず走り続けました。
そしてついに、サダ六の牢屋へとやってきたのですが、もうサダ六はいません。
でもシロはあきらめず、サダ六のにおいをたよりに処刑場へと急ぎました。
そして処刑場を見つけると、シロは処刑場へと飛び込みました。
しかしそこにいたのは生きたサダ六ではなく、もう冷たくなったサダ六でした。
シロはサダ六のなきがらを引きずって、処刑場を出て行きました。
役人がそれを止めようとしましたが、牙をむくシロの迫力に、手を出すことが出来ません。
やがてシロはサダ六の亡きがらを峠の森まで運ぶと、南部の国の方を向いて、
ウワォーン! ウワォーン!
ウワォーン! ウワォーン!
と、何度も何度も、遠ぼえを続けました。
それからというもの、村人たちはこの森を『犬ぼえの森』と呼ぶようになったのです。
おしまい
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