11月13日の日本の昔話
たいこもちと三つ目の大入道
むかしむかし、江戸でたいこもち(たいこをたたいたり、芸をしたりして、えんかいを盛り上げる事を仕事にしている人)をしている富八(とみはち)が、
「まい日まいばん、おきゃくのごきげんとりで、クタクタだ。おれだって、たまにはいきぬきに、箱根(はこね)のおんせんにでもいってくるかな」
と、東海道(とうかいどう)をのぼっていきました。
さて、そのかえり道のこと。
すっかりと、いきぬきをした富八が、きぶんもかるく身もかるく、箱根のさか道をあるいていくと、
「おい、まて!」
うっそうとしたスギの木だちから、よびとめるものがありました。
「だっ、だれだ?」
と、ふりむけば、三つ目の大入道がヌーッとあらわれ、三つ目をグワーッと見ひらいて、おどしにかかりました。
なみの男なら、きもをつぶしてにげだすところですが、富八は、客あしらいのうまさで、身をたてているたいこもちです。
ちょっとやそっとでは、おどろきません。
とりあえず、ばけものにだまされないおまじないにと、まゆ毛につばをぬってから、
「よよっ、だれかとおもえば、三つ目さんじゃありませんか。どうも、お顔が見えねえとおもったら、こんな山のなかにひっこんでいたんですかい。まったく、やぼというか、ものずきというか、いやはや、あきれたおかただ」
三つ目の大入道は、冨八のいきおいにのまれて、
「そういうおまえは、だれだったかなあ?」
「いやですな、たいこもちの富八をおわすれだなんて。おひとが悪い。ひところは、ずいぶんとひいきにしてくださったじゃありませんか。ねえ、そうでしょう」
こういわれると、しらないとはいえません。
「そうそう、富八だったな」
ていさいをつくろって、むりに話をあわせました。
こうなればもう、富八のペースです。
(こいつを江戸へつれだして、みせもの小屋へうりとばせば、ひともうけできるわい)
と、たくらんだ富八は、ことばたくみに、三つ目の大入道を江戸へさそいました。
「ねえ、ねえ、三つ目さんや。こんな山のなかで、人をおどかしてみたところで、一文にもなりゃしないですよ。そんなつまらないくらしはやめにして、どうです、花のお江戸へきてごらんなさいな。あんたくらい、めずらしいお顔をしていれば、ほうぼうからおよびがかかって、あっちからも小判、こっちからも小判、そっちからも小判と、小判小判のお山ができますよ。ゆうれいのきれいどころだって、ほうってはおかないよ。いや、にくいね、色男。金に女に、かー、こりゃあ、たまらないねえ」
「ほっ、ほんとですかい?」
「この富八、うそとぼうずの頭は、ゆったことがねえのがじまんなんです。ささっ、けっして、けっして、わるいようにはいたしませんて。人生はだれでも一度きり、だんな、ここが人生の勝負時ですぜ」
富八のちょうしのよさに、三つ目の大入道はついつい、道をいっしょにしましたが、どうかんがえても、話がうますぎます。
小田原(おだわら→神奈川)のあかりがみえるあたりまでくると、富八の話をあやしみだして、たちどまりました。
「おや、三つ目のだんな。いったい、どうしたんですか?」
富八がふりかえると、三つ目の大入道は、人にだまされないおまじないに、まゆ毛につばをぬっておりました。
おしまい
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