きょうの江戸小話
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12月31日の小話

切腹浪人

切腹浪人

 今日は、一年に、たった一度の大みそかです。
 米問屋(こめどんや)の店さきは、人でごったがえしておりました。
 その人ごみを、おしわけて、
「ごめん」
 店の中に、ひとりの浪人(お城ではたらいていない武士で、たいていが貧乏 →詳細)が、かけこんできました。
 ペタリと、土間(どま→家の中で、床を張らずに地面のままの所)にすわると、ものもいわずに、もろはだをぬいで、わきざしを、腹ヘつきたてようとします。
 おどろいたあるじが、かけおりて、
「まあ、まあ。まあ、おまちなさい」
 浪人の手をおさえ、刀をとりあげると、
「これは、いったい、どうしたわけでございます」
 たずねられると、浪人は、ぴたりと両手をついて、頭をひくくさげ、
「それがし、もとは、さる大名(だいみょう→とのさま)に奉公(ほうこう→つとめること)つかまつりし、いささか名のある者なれど、まことに口惜しや、腹ぐろき同輩(どうはい→おなじ地位のなかま)のたくらみにて、主家(しゅか→主人の家)をおわれ、それよりこのかた八年。辛苦(しんく→つらいめにあって苦しむこと)のなかに、なんとか命をつなぎまいったは、ご、ごっ、ご主人さま。ひとえに、ひとえにあなたさまのおかげにございまする」
 浪人は涙を流し、言葉を続けた。
「されば、されば、今日の大みそか。なんといたしても、こちらさまヘの、つもる借金(しゃっきん)。はらいもうさねば、あいすまぬしだいと、朝より八方かけめぐり、苦心(くしん)に苦心いたせども、ああ、悲しや、うらめしや、どうしてもくめんつかず、それゆえ、まことにもうしわけなく、ただ、ただ、いまは、おわびのために、この腹かっきって死のうとの覚悟。なにとぞ、なにとぞ、この場で、死なせてくださりませ」
と、まごころこめての言葉。
 米屋のあるじも、思わず涙をおとし、
「いや、まことに、お見あげもうしたお人がら。さっ、ささ。どうぞ、どうぞ、お手をおあげなされ。そのようなおぼしめしなら、お金のほうは、いつでも、よろしゅうございまする。お金のご心配をなさらず、どうかおくで、ごゆっくり、お酒などを、めしあがっていってくだされ」
 あるじのあたたかい言葉に、
「おこころざしは、かたじけのうございまするが」
と、浪人は立ちあがって、刀をうけとると、
「こんにちは、一年に一どの大みそか。まだ、あちら、こちちに、腹をきりに、まわらねばなりませぬ。・・・ごめん」
 いうと浪人は、とぶように、走りででいったそうな。

おしまい

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