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3年生の日本民話(にほんみんわ)

アワの長者(ちょうじゃ)
静岡県(しずおかけん)の民話(みんわ)
むかしむかし、あるところに、働き者(はたらきもの)ですが、とてもまずしい男がおりました。
「あーっ、はらへったなあー」
はらをすかせた男の見る夢(ゆめ)といったら、いつも食べ物(たべもの)の夢(ゆめ)ばかりです。
そんなある夜のこと、男は不思議(ふしぎ)な夢(ゆめ)を見ました。
広い荒れ地(あれち)に白いウマが現(あらわ)れて、金色にかがやくアワの穂(ほ)を食べている夢(ゆめ)です。
夢(ゆめ)からさめた男は、夢(ゆめ)に出てきたその場所(ばしょ)に、見覚(おぼ)えがあることに気がつきました。
そこでつぎの日、さっそく夢(ゆめ)に出てきた場所(ばしょ)にやってくると。
「なんと、夢(ゆめ)とおんなじじゃ」
そこには夢(ゆめ)で見た白いウマが、よく実(みの)った金色のアワの穂(ほ)を口にくわえていたのです。
「ああ、ありがたや。きっとこれは、ここをたがやせという神(かみ)さまのおぼしめしにちげえねえ」
男は夢中(むちゅう)で荒地(こうち)をたがやして、白いウマがくわえていた金色のアワの穂(ほ)をうえました。
さて秋になると、男のうえたアワの穂(ほ)は、みごとに実(みの)り、金色にかがやくアワで目もくらむばかりの大豊作(だいほうさく)です。
こうして男は、アワの長者(ちょうじゃ)とよばれる、大金持(おおがねも)ちになりました。
男は、ありあまるアワを、家の屋根(やね)からかべまで、あらゆるところにぬりこめて、ピカピカの家を建(た)てました。
それから何年かたったある年のこと、村はひどいききんにみまわれました。
食べる物(たべるもの)がなくなった村人たちは、みんなであわの長者(ちょうじゃ)の家にやってきて言いました。
「アワをめぐんでくだせえ。アワの長者(ちょうじゃ)さま」
ですが、金持(かねも)ちになって、すっかり心の変(か)わってしまったアワの長者(ちょうじゃ)は、
「ふん、アワはわしのものじゃ。お前らには一つぶたりともやらんわい」
と、村人たちを追(お)いかえしてしまったのです。
ですが、空腹(くうふく)にたえかねた村人たちは、長者(ちょうじゃ)が寝(ね)ているすきに、長者(ちょうじゃ)の家のかべにぬりこめてあったアワを、むしり取(と)り始(はじ)めました。
すると長者(ちょうじゃ)は、かべのアワをとられないように、かべというかべに、何重(なんじゅう)にもあつくドロをぬりつけたのです。
その夜、長者(ちょうじゃ)はひさしぶりにぐっすりとねむりにつきましたが、夜中になって、カリカリ、カリカリと音がするのに気づきました。
「おや? あの音は何じゃ?」
それは、アワをたくわえている倉(くら)の方から聞こえてきます。
長者(ちょうじゃ)がねむい目をこすりながら、倉(くら)へ来てみると。
「ネ、ネズミじゃあ!」
何千、何万というネズミが、カリカリ、カリカリとアワを食べていたのです。
そしてネズミたちは、倉(くら)の中のアワを全(すべ)て食べつくすと、やがてひとかたまりになって外へとびだし、白いウマにすがたをかえて、空にかけのぼっていったのでした。
「あっ、あの白いウマは、わしが夢(ゆめ)の中でみた、神(かみ)さまのウマ!」
長者(ちょうじゃ)は、自分がまずしい生活を送(おく)っていたことを思い出しました。
「わしは神(かみ)さまによって、長者(ちょうじゃ)にさせてもろうたのに、まずしい人にアワの一つぶもめぐんでやらんかった。じゃから、神(かみ)さまがおこりなすったんじゃ。神(かみ)さま、ゆるしてくだせえ」
それからというもの、男は百姓(ひゃくしょう)にもどって、また畑(はたけ)をたがやしはじめたという事(こと)です。
おしまい 
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