福娘童話集 きょうのイソップ童話
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1月28日のイソップ童話

ライオンとキツネとシカ

ライオンとキツネとシカ

♪音声配信



亜姫のイソップ童話より

 ライオンが病気になって、ほらあなの中でねていました。
 このライオンは、一ぴきのキツネとなかよしでした。
 お見舞いに来てくれたキツネに、ライオンはたのみました。
「ぼくの病気をなおしたいと思うのなら、森にいるシカをだましてここにつれてきてくれないか。ぼくはシカのはらわたと心臓が食べたくてたまらないんだ」
 キツネは、シカをさがしにいきました。
 まもなく、森の中ではね回っているシカが見つかりました。
 キツネは、シカに近づくと、
「あなたにいい話があります。われわれの王さまであるライオンくんが、いま病気で死にそうなんです。それでライオンくんは、自分が死んだ後の王さまをだれにするか考えました。イノシシは頭が悪いし、クマはのろまだ。ヒョウはおこりっぽいし、トラはすぐにいばる。そこで、シカくんなら背が高くてりっぱだし、長生きするし、どうどうとした角はあるしで、と、ここまでいえばわかるでしょう。ライオンくんは次の王さまに、あなたをえらびました。シカくん、王さまになりたいのなら、はやくライオンくんのところへいって下さい」
 キツネの話を聞いて、シカはすっかりとくいになりました。
 そして、キツネについていって、ライオンのほら穴に入りました。
 たちまち、待ちかまえていたライオンがシカに飛びかかりましたが、しくじって、シカの耳を引きさいただけでした。
 シカはいちもくさんに、森に逃げかえりました。
「お願いだ。もういちど、なんとかして、あのシカをつれてきてくれよ」
「うーん、やっかいで、むずかしいことをたのむなあ。まあいい。なんとかやってあげるよ」
 そしてキツネは、まるで猟犬のようにシカの足あとをつけていきながら、どうやってだまそうかと頭をひねりました。
 とちゅう、ヒツジ飼いたちにあったので、キツネは、
「血まみれになったシカを、見かけませんでしたか?」
と、たずねました。
「ああ、あそこの林の中の、ねぐらにいるよ」
 おしえられたキツネは、休んでいるシカのところへいって、すました顔であいさつをしました。
 シカはカンカンにおこって、毛を逆立てていいました。
「けがわらしいキツネめ! もう、だまされないぞ。そばに来たら命はないと思え。おまえがどんな悪者か、知らないやつをだましにいくがいい。王さまにしてやるといって、おだててやれ」
 すると、キツネは、
「あんたは、それほどこしぬけのひきょうものなのかい。そんなふうに、わたしたちをうたぐるなんて。ライオンくんがあんたの耳をつかまえたのは、王さまになったときの心がまえをおしえようとしたんだよ。それなのにあんたは、病気のライオンくんがちょっとひっかいたのもがまんできないなんて。あんたのふがいなさにおこったライオンくんは、こんどはオオカミを王さまにするといっているよ。こまるなあ。らんぼうもののオオカミが王さまになっては。だからさ、わたしといっしょにきてくれよ。ライオンくんが、あんたに害を加えるはずがない。わたしが保証するから」
 こんなふうに、キツネはシカをいいくるめて、もういちどライオンのところへ連れて行きました。
 シカがほらあなにはいると、ライオンは、こんどはごちそうを逃さないぞとばかり、骨からはらわたまで、ガツガツと食べてしまいました。
 キツネは、そばでながめていました。
 その足もとに、シカの心臓がこぼれ落ちました。
 キツネはそれをさっと拾って、さんざんはたらかされた埋め合わせにと、ぺろりと食べてしまいました。
 ライオンは、はらわたをはしから食べましたが、心臓だけがみつかりません。
「心臓は、どうしたのだろう?」
と、しきりにさがしています。
 それを見てキツネは、ライオンの手のとどかないところまで逃げてからいいました。
「このシカには、もともと心臓がなかったから、さがしてもむだだよ。だって、ふつうの心臓を持っている動物なら、ライオンのすみかへ2度も、のこのこやってくるはずがないだろう」

 このお話しは、えらくなっていばりたいという気持ちがあんまりつよいと、ものごとを見きわめる事ができなくなり、危険がさしせまっているのにも気がつかない、ということをおしえています。

おしまい

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