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12月5日の日本民話
  
  
  
エビとタコとフグのおどり
鳥取県の民話 → 鳥取県情報
 むかしむかし、ある夏の暑い日に、エビとタコとフグが海から出て、浜辺のマツの木の下で休んでいました。
  「海の外へ出るのも、気持ちがいいもんだな」
  と、エビが言いました。
  「本当に。風にふかれるのもわるくない」
  と、タコが言いました。
  「そうそう。体の中まで、すずしくなるみたいだ」
  と、フグが言いました。
   すると、そこへカラスが飛んできて、マツの木の上から、
  「とって食おう。とって食おう」
  と、鳴きました。
   エビとタコとフグは、ビックリしてカラスに言いました。
  「すぐに海へもどるから、かんべんしてください」
  「いいや、かんべんできない。こんなところへ出てくるなんてなまいきだ。お前たちの家は、海のそこじゃないか」
  「それでは、じまんのタコおどりを見せるから、食うのだけはかんベんしてください」
  と、タコが言いました。
  「わたしも、エビおどりをして見せます」
  と、エビがあわてて言いました。
  「なるほど、そいつはおもしろい。それなら、一匹ずつおどってもらおう」
  と、カラスが言いました。
   でもフグはおどる事ができないので、だまってうつむきました。
  「それでは、まずわたしから」
   エビが、前に進み出ました。
  ♪海の上にはすてきな
  ♪三日月さまよ
  ♪ピョンとはねれば
  ♪なみがちる
   うたいながら、エビがはねあがりました。
   そのすがたは、まるで海の上にうかんだ三日月にそっくりです。
  「いいぞ、いいぞ」
   カラスは大喜びです。
   こんどはタコが進み出て、マツの木に足を一本かけました。
  ♪マツには竹とウメの花
  ♪風にゆらゆら、さいてちる
   うたいながら、タコはのこりの足を広げておどりました。
   足のいぼいぼが動いて、まるで風にゆれるウメの花にそっくりです。
  「いいぞ、いいぞ」
   カラスは、これまた大喜びです。
  「では、次はフグの番だ」
   でもフグは何にもできないので、小さくなって言いました。
  「わたしはごらんのとおりで、何もできません。どうかかんべんしてください」
  「だめだ。何もできないのなら、お前を食うぞ」
   カラスがそう言うので、フグはしかたなく、ドテンドテンとひっくりかえりながらうたいました。
  ♪わたしみたいなものまでも
  ♪おどって見せろとは
  ♪あんまりな
  ♪フグにできるのは
  ♪おおきな、おおきな、ふくれっつら
   フグは、いっしょうけんめいにがんばったのですが、
  「だめだ、だめだ。そんなおどりじゃ。もうかんべんできない」
   するとフグが、かくごをきめて言いました。
  「しかたがありません。どうぞわたしを食べてください。でも、フグの毒にあたっても知りませんよ」
   それを聞いてカラスは、ハッと気がつきました。
   フグの体にはおそろしい毒があって、うっかり食べると死んでしまうのです。
  「もういい。かんべんしてやろう。お前のおどりもなかなかおもしろかったからな」
   そして、
  「もう、とって食わねえ、とって食わねえ」
  と、鳴きながらとんでいきました。
  「やれやれ、たすかった。二度と海からあがるのはやめよう。やっぱり海のそこが安心だ」
 エビとタコとフグは、あわてて海の中へもどっていったという事です。
おしまい