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2009年 2月5日の新作昔話

灰まき童子

灰まき童子
鹿児島県の民話鹿児島県情報

 むかしむかし、あがり長者とよばれる屋敷と、いり長者とよばれる屋敷がありました。
 でも、いり長者は、むかしあがり長者にだまされてしまったので、今ではとても貧乏で、屋敷に住むお母さんと十五歳の息子は、毎日の食べる物にも困っていました。
 ある年の夜、いり長者の息子は、あがり長者の屋敷へ米一升と、味噌を一椀(ひとわん)かりに行きました。
 でも、あがり長者は
「ほしけりゃ、庭のもみがらでも持って行け」
と、意地悪を言って、戸を閉めてしまいました。
 いり長者の息子は、しょんぼり帰ってお母さんに話すと、
「それなら、この芭蕉布(ばしょうふ→沖縄および奄美諸島の特産で、芭蕉の繊維で織った布)を売って、米と味噌を買っておいで。最後の一枚だけれど、仕方がありません」
 息子はうなずいて、町へ売りに出かけました。
 ところが途中の道で、子供たちがネズミをいじめているのを見かけると、息子は思わず声をかけました。
「この芭蕉布をやるから、ネズミを離しておやり」
 子供たちは、芭蕉布とネズミを喜んで交換しました。
 息子はネズミをふところにいれて家に帰り、かあさんに話しました。
「そう。それは、仕方ありませんね」
 お母さんは少しだけ残っていた粟(あわ)で、おかゆを炊きました。
 すると、ふところのネズミがすっと屋敷を出て外へ行き、どこからか財布をくわえてもどって来ました。
「おやまあ。ネズミの恩返しですね」
 お母さんと息子は財布をご先祖さまにお供えして、にっこり笑い眠りました。
 その夜、お母さんはこんな夢を見ました。
 ネズミがきちんと座って、こう言うのです。
「わたしは息子さんに、命を助けてもらいました。先ほどの財布は、ご恩返しです。でもわたしの気持ちは、あれだけではすみません。あの財布に入っているお金で、まだらの三つある犬を買って育ててください」
 翌朝、お母さんは息子に夢の話をして町へ行き、まだらの三つある犬を探して買って帰りました。
 犬はとても元気がよくて、あまりご飯を食べさせなくても、すぐに大きくなりました。
 そして山へ走って行って、自分の体より大きなイノシシをくわえて帰って来るようになったのです。
 その肉を売って、やがて二人は金持ちになりました。
 そんなある日、あがり長者がやって来てたずねました。
「お前たち、ついこの前まで米も味噌もないくらしをしておったのに、なんで金持ちになったのじゃ?」
 お母さんと息子は、これまでの事を話しました。
「なるほど、そんなら家にも、その犬を貸してくれ」
 欲張りのあがり長者は、犬を連れて行きました。
 お母さんも息子も、あがり長者がどんなに喜んで犬を返してくれるだろうと思っていました。
 でも三日たっても、犬はもどってきません。
 二人は心配になってあがり長者の屋敷へ犬を迎えに行くと、あがり長者が言いました。
「あの犬はひどい犬で、死んだブタやら腐ったネコの死体やらを運んできたんじゃ。だから殺して、こえだめに捨てた」
 お母さんと息子は、こえだめから犬を抱きあげると、泣きながら自分の家の庭に埋めました。
 そして何日かすると、そこから竹の子が出て来ました。
「お母さん、見てください」
 息子がお母さんを呼びに行くと、竹の子はグングン天にむかって伸び続けている最中でした。
 そして竹の子は、なんと天の米倉を突き刺したのです。
 そして、ザザザーッとお米が雨の様に降ってきました。
「おやまあ、米の雨だわ!」
 お母さんと息子は、喜んでその米を拾い集めました。
「ありがたいねえ。倉は米でいっぱいだよ」
 それから二人は、そのお米を売ってますますお金持ちになりました。
 しばらくして、あがり長者がやって来ました。
 のんびり暮らす二人を見て、あがり長者がたずねます。
「お前たちは犬もいなくなったのに、なんでこんないいくらしをしとるんじゃ?」
 お母さんと息子は、天から降って来たお米の話をしました。
 するとあがり長者は犬を埋めたところを掘り返して、犬の骨を残らず持って帰りました。
 お母さんと息子は、あがり長者がどんなに喜んで、骨を返しに来てくれるかと待っていました。
 ところが三日たってもあがり長者が来ないので、二人は出かけて行きました。
 するとあがり長者は、今にも飛びかかって来そうな勢いで怒鳴りました。
「お前たちの言うように、確かに竹の子が出て天を突き破った。だが突き破ったところは天の便所じゃ。おかげで屋敷中に汚い物が降って来て、えらい目に合ったぞ! だからあんな骨、浜の大岩のそばで焼いてやったわい!」
 お母さんと息子は浜辺の大岩へ走って行き、焼かれた骨を大事に包んで帰りました。
「どこか美しいところに、まいてやりましょう」
 次の日、二人は山へ出かけました。
 山の奥へと入っていくと、しげみからいきなり大きなイノシシが五頭も飛び出して来ました。
 息子は骨を焼いた灰をつかむと、
「お前は、もとは強くて立派な犬だったぞ。あのイノシシたちをやっつけてくれ!」
と、イノシシに灰を投げつけました。
 すると灰はイノシシの目に飛び込んで、イノシシの目をつぶしたのです。
 前が見えなくなったイノシシは、お互いに頭をぶつけてけんかになりました。
 そして一頭のイノシシが死んで、残りの四頭はどこかへ逃げてしまいました。
「お母さん、イノシシなべを食べて元気を出しましょう」
 二人が鍋をつついていると、あがり長者がやって来ました。
「お前たちは、犬の骨を灰にしてやったというのに、なんでイノシシなど食べれるのじゃ?」
 お母さんと息子は、山の中での出来事を話してきかせました。
 するとあがり長者は、残った灰を全部ひったくると、走って帰って行きました。
 翌日、あがり長者は灰を持って山へ出かけました。
 すると草のしげみから、四頭のイノシシが出てきました。
 あがり長者は灰をにぎって、四頭のイノシシめがけて投げつけました。
「お前は、もとは強くて立派な犬じゃったぞ」
 でも灰は風に流されて、どこかへ消えてしまいました。
 それを見たイノシシたちは、人間の声で言いました。
「こいつが昨日、仲間の目をつぶしてけんかさせた悪い人間だ! 殺してしまえ!」
「うわあー!」
 あがり長者は四頭のイノシシに襲われて、食い殺されてしまったそうです。

おしまい

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