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    福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 捨てられた女房 
      2008年 8月13日の新作昔話 
          
          
         
  捨てられた女房 
  京都府の民話 → 京都府情報 
      
       むかしむかし、都のはずれに、たいそう貧乏な男が住んでいました。 
         ところがその男の知り合いが、とても出世して遠い国のお殿さまになったのです。 
         そこで男は、そのお殿さまの家来として、ついて行くことになりました。 
        「これでやっと、自分にも運がむいてきたぞ」 
        と、喜んでみたものの、男には旅の支度をする金さえありません。 
         それで男は長い間連れそった優しい女房を捨てて、金持ちの家の新しい女をめとり、その女に金を出してもらうことにしたのです。 
         ところが新しい女房はわがままで、男に不平ばかり言っています。 
         そのうちに、男はだんだん前の女房が恋しくなってきました。 
         けれど金を出してもらった手前、新しい女房を追い出す訳にもいきません。 
        「いまの女房とは、形だけの夫婦。・・・ああっ、貧乏でもよいから、前の女房と暮らしたいのう」 
         男は次第に、そう思うようになっていました。 
         そのうち何年かたち、殿さまは、また京へ戻ることになったのです。 
        「これで、あいつに会うことができる」 
         男は京に着くと新しい女房を実家へ帰して、すぐにもとの自分の家へ戻りました。 
         ところが家についてみると、とても人が住んでいるとは思えないほどのひどい荒れようです。 
        「これが、わしの家だろうか?」 
        と、男は門の前に立ちすくみました。 
        「女房の奴、わしを恨んで出て行きおったにちがいない。・・・いや、悪いのはわしだ。女房をせめても仕方ない」 
         そう思いながらも中に入ってみると、いつもの場所に女房が座っているではありませんか。 
        「お前、待っていてくれたのか!」 
         男は女房のそばへかけ寄り、しっかりと抱きしめました。 
        「あなた、お帰りなさい」 
         女房は文句一つ言わず、嬉しそうに男の顔を見ました。 
        「許してくれ。わしが悪かった。わしの女房はお前だ。もう決して、離すまいぞ」 
         二人は夜のふけるのも忘れて語りあい、明け方になって、やっと寝床に入ったのです。 
         久しぶりのわが家に、男は安心してぐっすりと眠りました。 
         それから、どのくらいすぎたでしょう。 
         男が目をさました頃には、もう日がさしこんでいました。 
        「いやあ、よく眠った」 
        と、女房を見て、男は、 
        「あっ!」 
        と、驚いて、とび起きました。 
         それもそのはず、なんとそこには、骨だけになった女房の死骸が横たわっているのです。 
        「これはいったい、どうしたことじゃ!?」 
         男は寝まきのまま隣の家へとびこみ、妻のことを尋ねました。 
         すると、隣の家の人が言いました。 
        「ああ、その人なら去年亡くなられましたよ。何でも、ご主人が新しい奥方を連れて遠い国へ行ってしまったとかで、それはひどく悲しんでおられてのう。そのうち病に倒れられたご様子じゃったが、看病する人ものうて、死んでしまわれたそうな。お葬式をする人とてなく、亡骸もそのままだというので、怖がって近寄る人もありません」 
        「では、昨日あったのは、女房の幽霊だったのか」 
       そう思うと男は急に恐ろしくなり、そのまま逃げ出すと、どこかへ消えてしまいました。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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