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2008年 4月15日の新作昔話
米のごはんを腹いっぱい
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
きっちょむさんは、いばっている人が大嫌いで、そんな人は得意のとんちでやっつけたりしますが、貧しい人や困っている人にはとても親切な人でした。
あるとき、きっちょむさんは近所の貧しい家の子どもを預かりました。
「なあ、坊主、お前の一番の望みはなんだい?」
きっちょむさんがたずねると、子どもが言いました。
「ああ、おら、一度でいいから、米のごはんを食べてみてえ」
それを聞くときっちょむさんは、何とかしてお米のごはんを食べさせてやりたいと思いました。
でも、その頃のお百姓さんは貧乏で、食べ物はアワかムギのおかゆで、お米のごはんは、お祭りや祝い事などの特別な時しか、食べることができませんでした。
「弱ったなあ。お祭りは、まだまだ来ねえし」
そこで次の朝、きっちょむさんはわざと外へ行くと、すぐ戻ってきて、おかみさんに言いました。
「実は、今日は村のみんなで、こわれた道をなおすことになった。だから、早く弁当をつくってくれ」
村の仕事で出かけるとなると、弁当をつくらないわけにもいきません。
それにみんなと一緒に食べるのですから、アワやムギでは恥ずかしいので、おかみさんはとっておきのお米をたいて弁当箱につめ、干し魚もたくさん入れてあげました。
「ありがとよ」
きっちょむさんは弁当を持って、あわてて家を飛び出していきました。
ところがしばらくすると、がっかりした顔で帰ってきたのです。
「まったく、しょうのない話だ。せっかく弁当を持っていったのに、急に仕事が取りやめになった。もう少し早く教えてくれれば 弁当なんかつくらずにすんだものを」
きっちょむさんは、わざと怒ったふりをしました。
それから急に、やさしい顔になって言いました。
「しかし、せっかくの弁当を捨てるわけにもいかん。どうだろう、この弁当をあの子に食わせてやっては? きっと喜ぶぞ」
するとおかみさんは、ようやくきっちょむさんのやろうとしていた事がわかって、
「ええ。そうしてあげましょう」
と、にっこり微笑みました。
「あはは。まったく、お前はいい嫁さんだ」
そこできっちょむさんは、さっそく子どもを起こしてくると、
「ほら、米のごはんだ。これは全部、お前が食ってもいいんだぞ」
と、言って、腹いっぱい米のごはんの弁当を食べさせてあげました。
「おいしい! おいしい!」
むちゅうで弁当を食べている子どもを見ながら、きっちょむさんとおかみさんは顔を見合わせて、
「よかった、よかった」
と、言いました。
おしまい
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