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          福娘童話集 > きょうの新作昔話 > やみ夜のカラス 
         
        2010年 4月16日の新作昔話 
          
          
         
        やみ夜のカラス 
        吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて 
      
      
       むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。 
         
         ある日の事、きっちょむさんが町へ野菜を売りに行ってみると、大工の熊さんが、せがれの定坊(さだぼう)のえり首をつかんで大声でどなっています。 
         この熊さん、大工の腕は良いのですが、とても怒りっぽい人です。 
         えり首をつかまれた定坊は、 
        「ごめんなさい、ごめんなさい」 
        と、泣いてあやまっていますが、熊さんは許そうとはしません。 
         子ども好きなきっちょむさんは、二人の間に割っては入りました。 
        「まあまあ、熊さん。一体、どうしたと言うんですか?」 
         すると熊さんは、すみでまっ黒に塗りつぶされた、絵を描く絹の布を見せて、 
        「きっちょむさん、これを見てくれよ。わしは絵が好きだから、絵の先生に何かを描いてもらおうと思って、この絵ぎぬを買ってきておいたんだ。すると定坊の奴が、いたずらをしてこんなにすみを塗ってしまったんだ。これでは使い物にならない」 
        「なるほど。ちょっと、見せてください」 
         きっちょむさんはその絵ぎぬを受け取って、つくづくとながめてから言いました。 
        「熊さん、定坊は、とても絵がうまいね」 
        「な、なんだって?」 
        「定坊は、いたずらをしたんじゃなくて、やみ夜にカラスがいるところを描いたんだよ」 
        「えっ? やみ夜のカラスだって? ・・・なるほど、だからまっ黒というわけか。わはははははっ」 
         きっちょむさんのとんちに、さすがの熊さんも、お腹をかかえて笑い出しました。 
         そして、すっかり機嫌を直した熊さんは、 
        「定坊、もう、やみ夜のカラスを描くんじゃないぞ」 
        と、許してやりました。 
      おしまい 
         
          
         
        
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