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 7月1日の小話 
 大声、小声   むかし、あるところに、百姓の兄弟がいました。弟は良く働くのですが、ちょっと頭が弱いのが欠点です。
 
 ある日の事、二人で野良仕事(のらしごと→田畑に出てする耕作の仕事)をしていましたが、ちょうどお昼になったので兄が言いました。
 「先に帰って飯を炊いておくから、呼んだら帰って来いよ」
 「はい、兄さん」
 やがて飯が炊けたので、兄は外に出て弟に言いました。
 「おーい。飯が出来たぞー!」
 すると弟は、畑から大きな声で返事をしました。
 「わかったよ、兄さん。クワを盗まれないように、あぜに隠してから行くからー!」
 
 さて、二人で昼飯を食べている時に、兄が弟に言いました。
 「弟よ。物を隠す時は、人にわからないようにするもんだぞ。お前みたいに大声で言ったら、誰かが聞いて盗んで行くかもしれんぞ。大声には、気をつけたがいいぞ」
 「なるほど、大声には気をつけるか」
 
 昼飯が終わって先に弟が畑に帰って見ると、何とあぜに隠してある兄弟の大切なクワを誰かが盗もうとしているところでした。
 (大変だ! すぐに兄さんに知らせないと!)
 びっくりした弟はすぐに大声を出して兄を呼ぼうと思いましたが、さっき兄に大声を注意された事を思い出して、慌てて口をふさぎました。
 (困ったな。早く兄さんを呼ばないと、クワが盗まれてしまう)
 そこで弟は急いで家に帰ってくると、兄の耳元に口を寄せて小さな小さな声でそっと言いました。
 「兄さん。クワが盗まれそうだ」
 
 その後、兄は急いで畑に行きましたが、クワはもう盗まれた後でした。
 ♪ちゃんちゃん(おしまい)
  
 
 
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