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7月18日の世界の昔話

愛の竪琴

愛の竪琴
ギリシア神話ギリシアについて

 むかしむかし、ギリシアのオリンポスという山には、多くの神さまたちが住んでいました。
 その神さまたちの中にオルフェウスと名前の、竪琴(たてごと)の上手な若い神さまがいました。
 オルフェウスの弾く竪琴の音色は素晴らしく、神さまだけでなく動物や植物や岩までもが、うっとりと聞きいるほどでした。
 そしてそのオルフェウスには、エウリュディケという可愛い奥さんがいました。

 ある日の事、二人は野原へ花をつみに出かけました。
「エウリュディケ、こっちに来てごらん。きれいな花が咲いているよ」
「まあ、どこにあるの?」
 エウリュディケがオルフェウスの所へ駆け出そうとしたとたん、エウリュディケは足元にいた毒ヘビをうっかりふみつけてしまったのです。
 怒った毒ヘビは、エウリュディケの細い足首に噛みつきました。
「きゃあ!」
 エウリュディケはばったりと倒れて、そのまま動かなくなりました。
「エウリュディケ!」
 オルフェウスが駆け寄って抱き上げた時には、エウリュディケはもう死んでいたのです。
「ああ、何という事だ。エウリュディケ、エウリュディケ、エウリュディケ!」
 悲しみにくれたオルフェウスは、来る日も来る日も竪琴を弾きならして悲しみの歌を歌い続けました。
 しかしいくら歌っても、愛するエウリュディケを忘れる事は出来ません。
 それどころか、歌うたびに悲しみは深くなるばかりです。

 そんなある日、オルフェウスは決心しました。
「よし、死の国に行ってみよう。エウリュディケに会えるのなら、わたしはどんな恐ろしい目に会ってもいい」
 神さまたちの中で死んだ者をよみがえらす事が出来るのは、死の国のハーデス王だけです。
 オルフェウスは死の国へ通じる暗い道を何日も進み、やがて死の国の門へとたどり着きました。
 死の国の門は、恐ろしい番犬が守っています。
 その番犬は頭が三つもあって、髪の毛が生きたヘビです。
「がぅぅ!」
 番犬はヘビの毛を逆立てて、飛びかかってきました。
「負けるものか!」
 オルフェウスは勇ましく立ち向かっていきましたが、番犬の力にはかないません。
 番犬はオルフェウスを押さえつけると、そののどをかみ切ろうとしました。
(もう、もうだめだ)
 その時、オルフェウスの手から滑り落ちた竪琴が、風にゆられて、
♪ポロロン
と、鳴りました。
 すると番犬は、
「くーーん」
と、急に大人しくなり、尻尾を振りながらオルフェウスを門の中に入れてくれました。
 オルフェウスの美しい竪琴の音色に、番犬の心が穏やかになったのです。

 オルフェウスが死の国の城の中へ入って行くと、主であるハーデス王が驚いた顔で尋ねました。
「生きている者が、どうしてやってここに来たのだ? あの番犬は、何をしていたのだ」
 するとオルフェウスは、竪琴をかなでながら言いました。
「死んだ妻にどうしても会いたくて、ここまでやってまいりました。お願いです、どうか妻に会わせて下さい」
「だめだ。一度死んだ者を、生きた者に会わせる事は出来ん」
「ハーデス王、お願いです。妻に会わせてください」
 オルフェウスはそう言うと、いっそう大きく竪琴をかなでました。
 するとオルフェウスの竪琴の音色を聞いて心が穏やかになったハーデス王は、ゆっくりうなづいて言いました。
「わかった。エウリュディケを返してやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
 間もなく暗闇から、エウリュディケが姿を現しました。
 可愛そうにエウリュディケは、毒ヘビに噛まれた足を痛そうに引きずっています。
「ああ、エウリュディケ!」
 オルフェウスが駆け寄ろうとすると、ハーデス王が大声で止めました。
「待てっ! いいか、地上に戻るまで、エウリュディケの顔を見てはならん。言葉もかけるな。この言いつけを守らなかったら、エウリュディケとは二度と会えなくなるからな。わかったな」
「はい、必ず守ります」
 オルフェウスは、ハーデス王に約束しました。
 二人はすぐに、地上に続く道を登り始めました。
(これでまた、エウリュディケと一緒に暮らせる)
 二人は、暗く険しい道を進みました。
 エウリュディケがついてくる気配はするのですが、声をかけても姿を見てもいけないので、オルフェウスは本当にエウリュディケが来ているのか心配でたまりません。
(エウリュディケ、お前は本当についてきているか? ヘビに噛まれた足は大丈夫か?)
 やがて、地上の明かりが見えてきました。
(よし、もうすぐ地上だ。地上に出れば、エウリュディケは生き返るんだ!)
 オルフェウスは明るい光が満ちあふれる地上へ出たとたん、エウリュディケの方に振り返って手を差し伸べました。
「エウリュディケ、さあ、つかまって」
 そのとたん、オルフェウスの顔が真っ青になりました。
 何とエウリュディケの片足が、まだ死の国の暗闇の中にあったのです。
 オルフェウスはエウリュディケがまだ死の国にいる間に、姿を見て声をかけてしまったのです。
「オルフェウス、わたしを迎えに来てくれてありがとう。そしてさようなら」
 エウリュディケは悲しい声を残して、再び地の底に吸い込まれていきました。
「ああ、エウリュディケ!」

 再び引き離された二人は、もう二度と会う事は出来ませんでした。
 オルフェウスは竪琴を弾きながら野山をさまよい歩き、悲しみの歌を歌い続けたという事です。

おしまい

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