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福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 10月の日本昔話 > キンモクセイの妖怪 
      10月11日の日本の昔話 
        
           
  キンモクセイの妖怪 
       
      → キンモクセイの説明(10月6日の誕生花) 
      
       むかしむかし、ある町に、ひとりのさむらいが住んでいました。 
   ある日、さむらいの屋敷に知りあいの老人がたずねてきました。 
   その夜は月も大きく、二人は障子(しょうじ)をあけて、月をながめながら酒をくみかわしました。 
   ときどき、キンモクセイの花の甘い香りが、風にのって流れてきます。 
  「なんていい香りだ」 
   そういって、老人が庭の方をながめたときです。 
   大きなキンモクセイの木のそばに、白い着物を着た若い女が立っていたのです。 
   青白い顔に長い髪をふり乱して、ジッとこちらを見ています。 
  (おかしいな。少し酔っぱらったかな) 
   老人が、目をこすって立ちあがろうとしたとき。 
   その女が、いきなり風のように飛んできて、老人の前にぬうっと顔を出しました。 
  「うひゃ!」 
   老人は思わず身をのけぞりましたが、さむらいは、いっこうにおどろきもせず、 
  「客人の前で失礼な! さっさと消えないと、たたき切るぞ!」 
  と、いいました。 
   そのとたん、女はスーッとはなれ、キンモクセイの木のかげに消えました。 
  「やれやれ」 
   老人はホッと胸をなでおろすと、さむらいにたずねました。 
  「あれはなに者です?」 
  「さあ、なに者でしょう? 夜になると、いつもああやって出てきます」 
  「失礼だが、こわくありませんか?」 
  「べつになんともありません。気にしないで、どんどんやってください」 
   さむらいは、老人のさかずきに新しい酒をつぎました。 
   ところが、しばらくするとまた女が出てきて、今度は縁側の前を行ったり来たりするようになりました。 
   歩くでもなく、すべるでもなく、フラフラと動きまわるのです。 
   老人は、もう酒を飲むどころではなく、ブルブルとふるえながら女を見ていました。 
   女はきゅうに立ちどまると、老人の前に顔をつき出し、ニヤリと笑いました。 
   背筋がゾーッとして、老人は思わず息を飲み込みます。 
  「消えろというのに、まだわからんのか!」 
   さむらいは、いきなり刀を抜くと、女に切りつけましたが、女はフワリと身をかわすと、ゆっくりと逃げていきます。 
  「待て!」 
   さむらいははだしのまま庭へとびおり、女を追いかけました。 
   女は、「早くおいで」といわんばかりに、ときどきうしろをふり返り、キンモクセイの木のかげに消えました。 
   さむらいは、しばらく女の消えたあたりをさがしていましたが、ガッカリした顔でもどってきました。 
  「とうとう見失いました。まったく、しようのないやつで」 
  「いくらなんでも、殺すのはかわいそうですよ」 
  「とんでもない。あれは化けものですよ。戸があいていれば部屋の中にも来るし、布団の上にもあがってきます」 
  「なんと! さっきも聞いたか、おまえさんはこわくないのですか?」 
  「そりゃ、はじめはこわかったですよ。でも、べつに悪さをするわけでもないし、もう、なれっこになりました。刀で切りつけても手ごたえはないし、追えば風のように逃げだすし」 
   それを聞いて、老人はここにいるのがこわくなり、酒のお礼をいってすぐに屋敷を出ました。 
   月はあいかわらず、頭の上でかがやいています。 
   ふと顔をあげると、塀(へい)の上までキンモクセイの木がのびていて、その花のにおいが流れてきます。 
   その時、ポキッという、枝を折(お)るような音がしました。 
   老人が、塀の破れめからこわごわ中をのぞいてみると、さっきの女が木にのぼって、さかんに枝を折っています。 
   老人と目があったとたん、女はまたもニヤリと笑いました。 
   老人はもう、あとも見ずにかけだしました。 
   ふしぎなことに、女はその日から毎晩、キンモクセイの枝を折るようになりました。 
   さむらいが気にもとめないでいたら、とうとう全部の枝を折ってしまい、木を枯れさせてしまいました。 
   同時に、女はもう二度と姿を現すことがありませんでした。 
   それからまもなく、さむらいが死んだという知らせがありました。 
   老人がかけつけたとき、キンモクセイの木も花もないのに、あの甘ずっぱいにおいが屋敷じゅうにたちこめていたそうです。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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