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1月19日の百物語
古い木まくら
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むかしむかし、江戸の深川(ふかがわ)に、人の住んでいない空き家がありました。
なかなかに立派な家なので、一人の医者が引っ越してきました。
ところが引っ越ししてから何日かたつと、医者は体の具合がだんだん悪くなっていったのです。
「まあ、長い間空き家だったので、湿気が多いのであろう。それが体にさわったのかもしれん」
そこで医者は、自分で薬を作って飲みました。
ですが薬を飲んだのに、全く効き目がありません。
そればかりか、ついには寝込んでしまい、とうとう頭もあがらない病人になってしまったのです。
それでも、さすがは医者で、
(何とかして、この不思議な病気の原因をつきとめよう)
と、病気についてあれこれと考え始めました。
さて、いくらか熱の下がったある日の事。
医者はふと、こんな事を考えました。
(夜中になると、どこからともなく冷たくて嫌な風が吹き込んでくる。
その風に当たると、決まって気持ちが悪くなる。
どうも、あの風があやしいぞ。
風の来る方角は、どこだろう?)
ロウソクのゆれ具合からすると、その風は物置き部屋の方から吹いてきます。
(あの物置き部屋が、あやしいぞ。何者かがあの部屋にいて、わしを苦しめているに違いない)
そう思った医者は、さっそく妻を呼んで言いました。
「物置き部屋を、確かめておくれ。あやしい物があったら、調べておくれ」
妻はさっそく物置き部屋を調べてみましたが、別にこれといってあやしい物は見当たりません。
しかしふと、部屋のすみにある古い大きな仏壇が気になりました。
そこで仏壇も調べてみましたが、おかしなところはありません。
(変ねえ? ・・・ああ、もしかしたら、この台が)
仏壇は黒いうるし塗りの箱を台にして、その上に乗っていました。
そこで召使いの者に手伝わせて仏壇をどかすと、その箱のふたを開けてみました。
すると箱の中には、見るからに古びた木のまくらがひとつ入っていたのです。
手にとって見ると、どうやら百年はたっていると思われる古い木まくらでした。
妻はその古い木まくらを持って、医者の寝ている部屋にもどると、
「あやしい物は、何も見当たりませんでした。ただ、こんな物が仏壇の下の箱に」
と、言って、古い木まくらを見せました。
医者は木まくらに付いている引き出しを開けると、中のにおいをかぎました。
「ふーむ。やはり、このにおいだ。わしの病気の原因は、このまくらだ。かまわぬから、燃やしてしまいなさい」
そこで妻は裏庭でたき火をすると、その燃えあがる火の中に木まくらを投げ入れたのです。
すると木まくらから、青白いけむりが立ちのぼって、
プシューッ!
と、奇妙な音と一緒に、まるで動物の死体でも焼く様な嫌なにおいがしました。
やがて古い木まくらは、白い灰になりました。
もう、嫌なにおいはしません。
妻がたき火のしまつをして庭から座敷にあがってくると、あれほど具合の悪かった医者はすっかり元気になっていて、妻の顔を見るとにっこり微笑んだそうです。
おしまい
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