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3月13日の日本民話 2
こきんだぬきと親分
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むかしむかし、ある森の中に、こきんというたぬきがすんでいました。
こきんは、嫁入り姿に化けるのが得意でした。
あまりにも上手に化けるので、本当の嫁入りかと思って村の人たちが集まってくると、たちまちたぬきの姿にもどって逃げていくのです。
「まったく、たぬきのくせに人をだますなんて! 捕まえて、痛い目にあわせてやる」
ある日の夕方、目明かしの親分が、こきんのすんでいる森へと出かけていきました。
目明かしというのは、おまわりさんみたいな人です。
すると、いつのまにか森の中に立派な屋敷がたっていて、たくさんのあかりがついているのです。
(こんなところに屋敷とはおかしい。これはきっと、こきんのやつの仕業だな。ようし、とっ捕まえてやるぞ!)
親分は、屋敷に飛び込むなり、
「やいこきん、出てこい! 出てこないと、屋敷に火をつけるぞ!」
と、どなると、奥からかわいい娘さんの声がしました。
「まっ、待ってください。今夜は本物のお嫁さんになって、となりのやぶにすむ平八だぬきのところへ行くのです。それがすんだら、必ず親分につかまりますから、しばらく時間をくださいな。・・・そうだわ、よかったら親分もいっしょにきてくださいな」
それを聞いた親分は、
「なるほど、本物のたぬきの嫁入りなら、おもしろそうだ。わかった、わしも行こう」
と、承知しました。
やがて花嫁姿のこきんが、お供のたぬきをつれて玄関に出てきました。
とてもきれいな着物を着ていましたが、顔も手も足もたぬきのままです。
こきんは、ていねいに頭を下げて言いました。
「親分、あつかましいのですが、わたしの最後のお願いを聞いてください。親分が馬になって、となりのやぶまでわたしを乗せていってほしいのです。むこうについたら、うんとお酒をごちそうしますから」
お酒の大好きな親分は、すぐうれしくなって、
「酒か。よしよし、では馬になってやろう」
と、四つんばいになって、その背中へこきんを乗せました。
しばらく行くと、前よりも立派な屋敷があって、大勢のたぬきたちが出てきました。
親分の背中から降りたこきんが、言いました。
「式をする間、そのままここで待っていてください。親分が、『ヒヒヒーン』と馬の鳴きまねをするたびに、お酒やごちそうを運ばせますから」
「わかった」
こきんたちが屋敷に入ると、すぐに親分は馬の鳴きまねをしました。
ヒヒヒーン。
するとたちまち、お酒やごちそうが運ばれてきました。
親分はすっかりうれしくなって、ヒヒヒーンと鳴いては、お酒やごちそうのおかわりをしました。
やがて夜が明けて、村の人が森の中を通りかかると、ひもで木につながれた親分が、ヒヒヒーンと馬の鳴きまねをしていたそうです。
おしまい
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