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むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪)に、ひとりの大金持ちが住んでいました。 それで毎晩、長谷寺(はせでら)の観音さま(かんのんさま)に手を合わせてお願いをして、 ついに念願の子どもが生まれたのです。 その子どもはお母さんによく似た、美しい姫です。 ところが姫が十三才になった年、お母さんは重い病気にかかりました。 そう言って重い箱を姫の頭の上にのせたばかりか、大きな木の鉢(はち)までかぶせました。 そして、お母さんはなくなりました。 そのために姫は『鉢かづき』といって、バカにされたり、いじめられたりしました。 やがてお父さんに、二度目の奥さんがやってきました。 この新しいお母さんが悪い人で、鉢かづき姫にいじわるをしたり、かげ口をたたいたり、 最後にはお父さんをうまくだまして、鉢かづき姫を追い出してしまったのです。 家を追い出された鉢かづき姫は、シクシク泣きながら大きな川のほとりにやってきました。 ドボーン! 村の子どもたちが、鉢かづき姫に石を投げました。 ちょうどその時、この国の殿さまで山陰(さんいん)の中将(ちゅうじょう)という人が、家来を連れてそこを通りかかりました。 この中将には、四人の男の子がいます。 心のやさしい若君は、鉢かづき姫が傷だらけの手で水を運んだり、おふろをたいたりするのを見てなぐさめました。 「しんぼうしなさい。きっと、良い事があるからね」 若君は、お父さんの前へ出ると、 「素晴らしい? 他にはいないだと? ・・・よーし、では嫁合わせをしようではないか。兄たちの嫁と、あの鉢かづきを比べようではないか」 こうすれば鉢かづき姫は恥ずかしくて、自分からどこかへ行ってしまうだろうと考えたのです。 さて、いよいよ嫁合わせの夜がきました。 鉢かづき姫は思わず手を合わせて、長谷寺の方をおがみました。 「お母さま。 今までどうしてもはずれなかった頭の木鉢が、ポロリとはずれたのです。 鉢の下からは、かがやくばかりの姫が現れました。 そして鉢の中からは、金・銀・宝石があとからあとからこぼれ出ました。 そこへ現れた若君が言いました。 「やはり、あなたは素晴らしい娘だ。さあ、美しい姫よ、嫁合わせに行きましょう」 そこへ鉢かづき姫が、ニコニコと笑いながら現れました。 「おおーっ」 中将は鉢かづき姫の手をとって自分の横に座らせると、若君に言いました。 「はい、父上!」 ある時、鉢かづき姫が長谷寺の観音さまにお参りをしたときのことです。 本堂の片すみで、みすぼらしい姿のお坊さんに会いました。 「まあ、お父さまではありませんか」 すっかり落ちぶれて新しい奥さんにも見捨てられたお父さんは、鉢かづき姫を追い出した事を後悔して、旅をしながら鉢かづき姫を探していたのです。 それからお父さんは鉢かづき姫のところにひきとられ、幸せに暮らしました。 おしまい イラストレーターの夢宮 愛さんが、その後のお話しを描いています。 |
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