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5年生の日本昔話
はなよめになりそこねたネコ
むかしむかし、あるところに、観音様(かんのんさま)につかえているネコがいました。
ネコは人間の花嫁(はなよめ)を見るたびに、自分も美しい娘(むすめ)になって、人間のところへ嫁入(よめい)りしたいものだと、いつも思っていました。
そこで観音様に、
「わたしを、人間の嫁(よめ)にしてください」
と、たのんだのです。
「よし、わかった。おまえはこれまで、わたしによくつかえてくれた。おまえなら、りっぱな花嫁(はなよめ)になれる。わたしがいい若者(わかもの)を見つけてやろう」
観音様は、いつもお参りにくる若者(わかもの)の夢枕(ゆめまくら→夢(ゆめ)の中)にたって、
「あすの夕方、お堂の前にいる娘(むすめ)を嫁(よめ)にするがよい」
と、言いました。
若者(わかもの)はよろこんで、すぐにこのことを両親に話しました。
すると、信心深い(しんじんぶかい→神仏(しんぶつ)を思う気持ちが強いこと)両親もよろこんで、次の日の夕方、若者(わかもの)といっしょに観音堂へ出かけました。
観音堂の前には、すっかり人問の娘(むすめ)に化けたネコが立っています。
「あの娘(むすめ)ではないか?」
「あら、なかなかの器量(きりょう→美人(びじん))よしだこと」
三人は娘(むすめ)のそばへ行きました。
「だれか、待っているのかい」
父親がたずねると、
「はい、観音様のおつげで、ここに待っているように言われました」
娘(むすめ)が、はずかしそうに答えます。
見れば見るほど美しい娘(むすめ)で、若者(わかもの)もこの娘(むすめ)が気に入りました。
「じつはわたしも、観音様のおつげで、ここにいる娘(むすめ)さんを、嫁(よめ)にするようにと言われたのです」
「えっ、そんな・・・」
娘(むすめ)が、ポッとほおをそめます。
「どうだろう。うちの息子の嫁(よめ)になってもらえないだろうか」
父親の言葉に、娘(むすめ)はこっくりうなずきました。
「よかった。それじゃ、さっそく話をすすめたいが」
「では、わたしの両親にも会ってください」
娘(むすめ)は三人をつれて、観音堂の裏手(うらて)へ行きました。
そこには、古くてりっぱな屋敷(やしき)があって、年老いた娘(むすめ)の両親がいました。
「なんともありがたいお話で。だが、ごらんのとおりの貧乏家(びんぼうか)で、娘(むすめ)にはなにもしてあげられません」
「いや、仕度(したく)のほうは、いっさいこちらでいたしますから、もう、娘(むすめ)さんさえいただければ」
若者(わかもの)の両親は、古い屋敷(やしき)を見て、むかしは相当な家柄(いえがら)にちがいないと思いました。
若者(わかもの)と両親がもどっていくと、娘(むすめ)の両親は、すぐにネコの姿(すがた)にもどって、屋敷(やしき)を出て行きます。
りっぱな屋敷(やしき)といっても、よくよく見たら、もう何年も人の住んでいない空き家で、野良ネコたちの住まいになっていました。
娘(むすめ)に化けたネコは、すぐ観音様のところへ報告(ほうこく)に行きました。
「おかげさまで、人間の花嫁(はなよめ)になれそうです」
「おまえは、もう人間になったのだから、めったなことで、ネコのようなまねをするでないぞ」
さて、いよいよ婚礼(こんれんい→けっこんしき)の夜がやってきました。
約束どおり、若者(わかもの)の家では、花嫁(はなよめ)の着物からカゴ)まで用意して、娘(むすめ)をむかえにきました。
古い屋敷(やしき)の前には明かりがつけられ、人間に化けた野良ネコたちが、いそがしそうにはたらいています。
やがて花嫁(はなよめ)が出てきて、カゴに乗りました。
花嫁行列(はなよめぎょうれつ)は、ちょうちんの明かりにかこまれて、しずしずと進んでいきます。
(これで、もう思い残すことはないわ)
カゴの中のネコは、心から満足しました。
花嫁行列(はなよめぎょうれつ)が花むこの屋敷(やしき)につくと、すぐに座敷(ざしき)で祝言(しゅうげん→おいわいのことば)が始まりました。
花嫁(はなよめ)になったネコは、花むこのとなりに座(すわ)って、ウットリとしています。
おごそかな謡(うたい→おいわいの歌)とともに、三三九度の盃(さんさんくどのさかづき→お祝いのぎしきで、三つ組のさかづきで、三度ずつ、酒杯(しゅはい)をいただくこと)がかわされ、花嫁(はなよめ)が盃(さかずき)を口に持っていこうとした、そのときです。
ふいに、おぜんの横へネズミが出てきました。
そのとたん、花嫁(はなよめ)は、
「ニャオーン!」
と、鳴くなり、ネコの姿(すがた)になってネズミにとびついてしまったのです。
「なんだ、あれは!」
祝いの席に並(なら)んでいた人たちは、ビックリ。
花嫁(はなよめ)の両親に化けていたネコや、人間になってついてきたネコたちも、すっかりあわてて、次つぎに、ネコの姿(すがた)になって座敷(ざしき)をとび出していきました。
花嫁(はなよめ)に化けていたネコは、どうすることもできず、ネズミをくわえたまま逃(に)げだしました。
花むこや両親は、ぼうぜんとして、しばらく座(すわ)っていましたが、すぐに花嫁(はなよめ)の屋敷(やしき)に向かいました。
ところが、観音堂の裏手(うらて)には、空き家になったボロ屋敷(やしき)があるだけで、だれもいません。
「なんてひどい観音様だ!」
両親はカンカンにおこって、観音堂へは二度とお参りに行きませんでした。
花嫁(はなよめ)になりそこねたネコに、観音様があきれていいました。
「あれほど、よく言い聞かせておいたのに。もう、ネコは決して、人間の嫁(よめ)にはしない」
おしまい
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