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12月3日の日本の昔話
人を水中に引き込むカッパ
むかしむかし、滝のあるふち(→川の深いところ)に、一匹のカッパが住んでいました。
このカッパは頭の上の皿をどんな物にでも変えられるという、不思議な力を持っています。
ふちのそばで美しい花を咲かせたり、大きな魚にして、それを人が取ろうとしたとたん、腕をつかんで水中深く引っぱり込んでしまうのです。
このカッパのために、これまで何人の人が命を落としたかしれません。
このふちの近くの村に、上野介(こうずのすけ)というさむらいが住んでいました。
村でも評判の力持ちで、米俵(こめだわら)を片手で軽く持ち上げ、ぬかるみに落ちた荷物いっぱいの車でも楽々と引っ張り上げる事が出来ました。
ある日の事です。
町からの帰り道に、上野介がこのふちのそばに来ると、目の前にきれいな女のかんざしが浮いています。
よく見ると、お城のお姫さまがさすような立派なかんざしで、村の娘の手に入るような品物ではありません。
「これは、良い物を見つけたぞ」
上野介は思わず手をのばして、このかんざしを取ろうとしました。
そのとたん、水の中から青白い腕がのびて来て、上野介の手首をつかみます。
上野介はビックリして手首を引っ込めようとしましたが、その力の強い事。
今にも水の中へ、倒れそうになりました。
しかしさすがは、力持ちで知られた上野介です。
逆にもう一方の手で青白い腕をつかむと、上へ引っ張り上げようとしました。
どっちの力も強くて、引っ張ったり、引っ張られたり、なかなか勝負がつきません。
それでも上野介が思い切り力を入れてふんばると、一匹のカッパが姿を現しました。
(カッパの仕業であったか)
上野介はそのままカッパを上に引き上げると、後ろへ放り投げました。
バコンという音がして、カッパは後ろの岩にたたきつけられます。
上野介はホッとして、カッパのそばへかけよりました。
「危ないところだった。考えてみれば、かんざしが水に浮くわけはない」
言いながらカッパを見ると、気を失っているだけで、どこにもけがをしていません。
(さすがは、ふちの主だけの事はある)
上野介は近くの木のつるを取ってカッパをしばりあげると、肩にかついで家に連れて帰りました。
屋敷の者たちは、カッパを見てビックリ。
「なるほど、これがカッパというものか」
「それにしても、恐ろしい顔をしているものだ。こんなカッパを生けどりにするなんて、やっぱり旦那(だんな)さまは大したものよ」
みんなが感心していると、ふいにカッパが目を開けました。
「おっ、気がついたぞ。逃げられたら大変だ」
屋敷の者たちは縄(なわ)でカッパをグルグル巻きにして、庭の木にしばりつけました。
こうなってはさすがのカッパも、どうする事も出来ません。
カッパはなさけない顔でうなだれたまま、ジッと地面をにらんでいました。
それを見て、上野介が言いました。
「いいか、どんな事があっても、水をやるでないぞ」
ところが夜になると、カッパはクエンクエンとほえるように泣き出し、うるさくてかないません。
台所で仕事をしていた女中(じょちゅう)の一人が、水びしゃくを持ったまま庭へ飛び出し、
「うるさいねえ、いいかげんにしろ!」
と、その水びしゃくでカッパの頭をコツンとたたいたら、水びしゃくの中に残っていた水がカッパの頭の皿にかかりました。
するとカッパはみるみる元気になり、グルグル巻きの縄を引きちぎってそのまま庭の外へ飛び出しました。
「カッパが、逃げた!」
女中の叫び声を聞きつけて、上野介や屋敷の者がかけつけましたが、すぐに姿は見えなくなりました。
しかしこれにこりたのか、このカッパは二度と人を水の中へ引き込む事はなかったということです。
おしまい
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