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2月27日の日本民話
牛になるまんじゅう
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むかしむかし、あるところに、一軒のそまつな宿屋がありました。
おばあさんがたった一人いるだけでしたが、とても親切そうなおばあさんだったので、時々泊まって行く人がいました。
ところが不思議な事に、宿屋に泊まった人はみんな姿を消してしまうのです。
そしてその宿屋では、お百姓仕事もしないのに牛を何頭も飼っていました。
ある時、一人のお坊さんがこの宿屋に泊まりました。
「よく来てくれました。さあ、ゆっくり休んで行ってください」
おばあさんは、一生懸命お坊さんをもてなしました。
(ほほう。見かけは悪いが、なかなか親切な宿屋だ)
お坊さんはとても喜んで寝床につきましたが、その真夜中、ごそごそと音がするので目が覚めました。
(はて、何の音だろう?)
お坊さんは起きあがって、音のする方の部屋をこっそりのぞいてみました。
すると、どうでしょう。
おばあさんがいろりの回りに、せっせとごまの種をまいているのです。
(おや? あんなところにごまの種をまいて、いったいどうするつもりだろう?)
不思議に思いながら見ていると、床の上にみるみるごまの芽が伸びてきて大きくなりました。
おばあさんはそれをつみ取り、何やらあやしげな粉と混ぜ合わせて、おいしそうなまんじゅうを作りました。
(これは面妖(めんよう)な。しかし、あのまんじゅうをどうするつもりだろう?)
お坊さんは怖くなって逃げ出そうと思いましたが、こんな真夜中では、どこへ行ってよいかわかりません。
仕方なく部屋に戻って、夜が明けるまでがまんしていました。
すると朝早く、おばあさんがお皿にまんじゅうを乗せて持って来ました。
「お客さん、朝ごはんの代わりに、まんじゅうを食べてください」
(ややっ。これは、あのまんじゅうに間違いない)
そう思ったお坊さんは、
「いやいや。ゆうべごちそうをいただいたから、まだお腹がいっぱいです」
と、言って、断りました。
するとおばあさんは、がっかりして部屋を出て行きました。
その時、近くの部屋で、
「モー」
と、言う牛の鳴き声がしました。
お坊さんがびっくりして駆け付けてみると、部屋からおばあさんに引かれた牛が出て来ました。
「これはいったい、どうしたのです?」
お坊さんが尋ねると、
「なに、わたしの飼っている牛が、部屋に上がり込んでしまったんですよ」
と、おばあさんはにこにこしながら、牛を庭の方へ連れて行きました。
その時、牛の出て行った部屋をのぞいてみると、お客さんの荷物が置いたままです。
(わかったぞ。あのまんじゅうを食べると、牛になるんだ)
お坊さんの思った通り、おばあさんは宿屋に泊まったお客を牛にして、牛買いに売っていたのです。
(なんて、恐ろしい事を)
でもお坊さんは、何くわぬ顔で、
「すまんが、今夜も泊めてもらいます」
と、言って、宿屋を出て行きました。
そしてお坊さんは町で本当のまんじゅうを買うと、その日の夕方、宿屋へ戻って来ました。
すると、おばあさんは、
「お腹が空いたでしょう。すぐに夕ご飯を作りますから、それまでこのまんじゅうでも食べていてください」
と、言って、牛になるまんじゅうを出しました。
するとお坊さんは、町で買ってきたまんじゅうをその横へ置き、
「いや、わたしもまんじゅうを買って来たところです。おばあさんのまんじゅうもおいしそうだが、こっちも食べてみてくださいよ」
と、言いながら、牛になるまんじゅうと素早くすり替えて、おばあさんに渡しました。
「それなら、先にあなたのまんじゅうをいただきましょうか」
そう言っておばあさんは、お坊さんに渡されたまんじゅうを食べました。
するとその途端、おばあさんの姿はみるみる牛になってしまったのです。
こうしてお坊さんは、恐ろしい宿屋の主人を退治したのでした。
おしまい
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