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5月14日の日本民話
はち助いなり
石川県の民話 → 石川県情報
・日本語 ・日本語&中国語
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
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制作 : 果実乃ゐと⁕Kamino Ito⁕
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制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、小松城(こまつじょう)の殿さまが、お忍び(おしのび→身分の高い人がひそかに外出すること)で町の見回りに出かけた時の事です。
「ココーン! ココーン!」
と、まっ白なキツネが、殿さまの前に飛び出してきました。
続いてその後から、男たちが追っかけてきて、
「このドロボウめ!」
「さあ捕まえた! もう、逃がさんぞ!」
と、そのキツネを捕まえると、なぐったりけったりします。
「ココーン! ココーン!」
キツネが痛そうに泣きさけぶのを見かねた殿さまが、男たちに声をかけました。
「これ! いいかげんに、かんべんしてやったらどうじゃ? かわいそうに、すっかり弱っているではないか」
すると、男たちは言いました。
「へえ、しかし、こいつに魚の干物(ひもの)を荒らされて、店は大損しましたので」
「かといっても、キツネの命を取ったところで、魚の干物が帰ってくるわけではあるまい」
「それは確かに。けどこのままじゃ、あっしらの気がおさまらねえです」
「それに、またやられちゃかなわねえ。ここはやっぱり、このキツネを殺してしまわないと」
と、男たちは再びキツネをなぐろうとしたので、殿さまはあわてて言いました。
「待て、待て! では、わしがその干物の代金を払おうではないか」
「はあ、まあ、それならいいですが」
手を引っ込めた男たちに、殿さまは十分なお金を渡して言いました。
「その代わり、キツネは連れて行くぞ」
そして殿さまは傷ついたキツネをお城に連れて帰り、薬を塗ってやさしくかいほうしてやりました。
何日かするうちに、傷が治ったキツネは元気を取り戻しました。
「よいか、これからは町に出て、人さまの物を取るような悪い事は決してするでないぞ。わかったな。さあ、山へ帰るがいい」
キツネは頭を下げると、何度も何度もお城の方を振り返りながら、山へ帰って行きました。
それから数ヶ月が過ぎた頃、お城で大変な事がおこりました。
江戸(えど→東京都)に大切な手紙を届ける役目の飛脚(ひきゃく)の五平次(ごへいじ)が、急な病気で倒れてしまったのです。
殿さまは、困ってしまいました。
「うーん、弱ったのう。この手紙が七日以内に江戸に届かねば、お家の一大事となる。誰かほかに、足のはやい者はおらんのか?」
「・・・・・・」
家来たちはお互いに顔を見合わせますが、五平次よりはやく走れる者など、どこを探してもいません。
「困った。どうしたらよいのじゃ?」
頭をかかえる殿さまのところへ、家来の一人があたふたとかけつけました。
「殿! 江戸まで、七日以内に走るという男がおります」
「な、なんじゃと! すぐに呼べ!」
家来に案内されて、一人の若者がお城にやってきました。
「わたしは山向こうに住む、はち助という者です。足のはやさには、いささかの自信があります。どうか今回の仕事、このはち助にお申しつけください」
この申し出に、殿さまはしばらく迷ってはいましたが、
「よし! 頼むぞ、はち助とやら」
と、大事な手紙を渡しました。
「はい!」
はち助は、すぐにお城の門から出て行き、すぐに姿が見えなくなりました。
「さて、無事に届けてくれるとよいが」
手紙を預かったはち助は殿さまの信頼に答えようと、夜も昼も休むことなく走り続けました。
はち助が出発して、七日目です。
「今日で七日目か。何とか今日のうちに、江戸に着いてくれればよいが」
殿さまが心配していると、家来たちが駆け込んできました。
「と、殿さま! はち助が戻ってきました!」
「な、なに? もう、戻ったと!? ああっ、もうおしまいじゃあ!」
ガックリと肩を落とす殿さまに、家来たちはニコニコしながら言いました。
「殿さま、勘違いされては困ります。はち助は無事に、つとめを果たして戻ったのでございます」
「それはまことか!」
「はい、江戸からの返事も持ち帰ってございます」
「なぜ、それを早く申さぬ。すぐに、はち助を呼ぶのじゃ」
殿さまの前に呼ばれたはち助は、江戸からの返事をうやうやしく差し出しました。
返事を確認した殿さまは、大喜びで言いました。
「はち助、ようやってくれた。それにしても飛脚の足で往復半月はかかる道のりを、わずか七日で走るとは、まったくあっぱれな飛脚ぶり。これからはわしの家来として、働いてくれないか」
「ありがたきお言葉」
こうしてお城のおかかえ飛脚となったはち助は、それからというもの殿さまの手紙を届けるために、何度も江戸へ行くようになりました。
ふつうの飛脚の二倍のはやさで走るはち助は、殿さまにたいそう可愛がられ、大事にされたのです。
ある日の事、江戸からもどったはち助に、殿さまが言いました。
「ごくろうであったな、はち助。ゆっくり休むがいいぞ」
「はっ、ありがとうぞんじます」
「ところではち助、小浜と江戸の道中(どうちゅう)で、なにかやっかいな物はないか?」
「はい、別にはございません。・・・いえ、ただ一つだけ、小田原(おだわら→神奈川県)にいる大きなむくイヌには困っております」
「ほう、小田原のむくイヌか。これは、おもしろい。はち助ともあろうものが、イヌに困るとは。はははは」
と、殿さまに笑われたはち助は、てれくさそうに頭をかきました。
それからしばらくして、はち助はまた、江戸へ手紙を届けるために旅立っていきました。
ところが今度は、何日たっても戻ってきません。
「はち助は、まだ戻らんのか? いったい、どうしたというのだ?」
はち助の身に何かあったのではないかと心配する殿さまは、ふと、はち助の言葉を思い出しました。
「そうじゃ、小田原じゃ! いそげ、はち助を探しにいくぞ!」
殿さまはさっそくはち助を探し出すために、小田原へと向かいました。
そして何日も何日も、はち助の行方を探して旅を続けたのです。
小田原まで、もう少しという山道へさしかかったとき、
「はて、あれはなんじゃろう?」
と、殿さまが、草むらの方を指さして言いました。
「さあ、なんでございましょうなあ? ちょっと、見てきましょう」
ウマからおりた家来が、草むらをのぞいて大声をあげました。
「と、殿! これをごらんください!」
そこには真っ白なキツネがいて、大事な手紙の入った箱を抱きかかえるようにして死んでいたのです。
これを見た殿さまは、全ての事がわかりました。
「は、はち助、お前は・・・」
はち助は、殿さまが助けたキツネだったのです。
小田原でイヌにおそわれながらも、なんとかお城にたどりつこうとして息たえてしまったのです。
殿さまは、そんなはち助の死を大変悲しんで、お城の中に立派な社(やしろ)をたてると、はち助いなりとしてまつりました。
今でも小松城には、はち助をまつるおいなりさまが残っているという事です。
おしまい
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