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10月8日の日本民話
ワシにさらわれた赤ちゃん
滋賀県の民話 → 滋賀県情報
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むかしむかし、近江の国(おうみのくに→今の滋賀県)のお百姓さんの家に、男の赤ちゃんが生まれました。
この赤ちゃんが二歳になった、ある日の事です。
お母さんは眠っている赤ちゃんを木のかげに寝かせて、くわ畑で仕事をしていました。
すると一羽の大きなワシが、そのくわ畑をめがけて舞い降りてきました。
お母さんはくわの葉をつむのをやめて、
「ああっ!」
と、叫びながら、赤ちゃんのいる方へかけ出しました。
ところが大ワシの方がお母さんよりも早く赤ちゃんをさらうと、さっと空へ舞いあがりました。
「わぁーん!」
大ワシにつかまった赤ちゃんが、泣き声をあげました。
「だれか来てえ! だれか助けてえ!」
お母さんは大声で叫びましたが、大ワシはそのまま赤ちゃんをさらっていったのです。
知らせを聞いた村人たちは、お母さんと一緒に大ワシにさらわれた赤ちゃんを探しましたが、ついに赤ちゃんは見つかりませんでした。
「ああ、わたしの、わたしの赤ちゃん!」
お母さんは、一晩中泣いて悲しみました。
でも、泣いていても仕方がないので、お母さんは旅支度をすると、赤ちゃんを探す旅に出たのです。
お母さんは毎日毎日、いなくなった赤ちゃんを探して歩きました。
さて、近江の国からずいぶんと離れた奈良のお寺に、義淵(ぎえん)というえらいお坊さんがいました。
ある日の夕方、お坊さんがお寺のすぎの木の上から、子どもの泣き声がするのを聞きつけました。
不思議に思って木の上を見ると、ちょうど一羽の大ワシが小さな子どもを木の枝の間に、ちょこんと乗せようとしているところでした。
「あっ、あぶない! 大ワシよ、頼むから子どもを落とすなよ」
お坊さんはお経をとなえながら、子どもの為に祈りました。
お坊さんの祈りが通じたのか、大ワシは子どもをしっかりと木の枝の間に乗せると、そのままどこかへ飛んでいってしまいました。
お坊さんは寺のみんなを呼んで、子どもを木の上から下ろさせました。
そして自分の子どものように可愛がって、立派に育てたのです。
大ワシにさらわれてきたその子どもは頭が良くて、大変勉強の出来る子でした。
それから、長い月日がすぎました。
大ワシにさらわれた子どものお母さんは、まだあきらめていません。
あいかわらず、子どもの行方を探し続けていました。
ある時、お母さんは奈良の東大寺に、子どもの頃に大ワシにさらわれて、いまはすぐれたお坊さんになっている人がいるという話を聞きました。
お母さんが胸をおどらせながらそのお寺をたずねて行き、良弁上人(りょうべんしょうにん)とよばれるそのお坊さんに会ってみると、何とうれしい事に大ワシにさらわれた自分の子どもだったのです。
なぜ子どもとわかったかと言うと、それは大ワシにさらわれた時に身に着けていた観音さまのお守り袋が、お母さんが赤ちゃんに持たせていた物と同じだったからです。
おしまい
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