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10月26日の日本民話
松の木の伊勢まいり
山形県の民話 → 山形県情報
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むかしむかし、伊勢(いせ)の大神宮(だいじんぐう)へ、若い男女の二人連れがお参りに行きました。
二人はとても上品で、特に女の人は絵にかいたように美しく、名前を松子(まつこ)といったそうです。
ところがこの二人、とても世間知らずな上、お金の使い方が下手でした。
ですから大神宮へのお参りをすませての帰り道、お金が足りなくなってしまったのです。
これを知った宿屋の主人が、二人を気の毒に思って言いました。
「お客さま、宿代は心配なさいますな。来年も、お客さまの村の誰かが参宮(さんぐう)なさるのでしょう。その時に一緒に返してくだされば、結構です。ああ、それからこれは、帰りの足しに」
宿屋の主人は、二人にお金まで貸してやりました。
さてその次の年、あの二人の村から人が大勢きて、その宿屋に泊まりました。
そこで主人は、
「あの、あなた方の村の松子さんという人と、もう一人の方に、去年少しばかりおたてかえしたものがあるのでございますが、お持ちくださいましたでございましょうか?」
と、たずねてみました。
すると、その村人たちは、
「はあ、松子さん?」
と、みんな不思議そうな顔つきをしました。
「村には、松野とか松代とか、松のつく名の人間はいるが、その松子というのはおらんぞ」
「それに去年は、誰も伊勢参宮をしていないが」
それを聞いて、宿屋の主人は首をかしげました。
「へえ、さようでございますか。おかしいですねえ。決して人をだまされる方には、お見受けしませんでしたが」
それから数日後、伊勢参宮から帰ってきた村人たちは、さっそく伊勢の宿屋で聞いた話を村人たちにしました。
すると村人の一人が、大きく両手を打ちながら言いました。
「そうか、それでわかった!」
「わかったって、何が?」
「村の諏訪神社(すわじんじゃ)の二本の松の木に、去年から白い物がちらちらしているのを知っているだろう?」
「ああ、あれですか。子どもがたこでも引っかけたと思っていたのですが」
「いやいや、あれは今の話しからすると、お伊勢さんの大麻(たいま→神社からさずけるおふだのこと)ですわ」
「そういえば、確かに大麻かもしれん」
「よし、確かめてやろう」
そこで木登りの上手な人がその松の木に登っていくと、やがて上の方から、
「おーい!」
と、声がしました。
木の下のみんなは、上に向かって大声でたずねました。
「どうだったー! お伊勢さんの大麻かー!」
「ああ、やっぱり大麻だあー! 間違いなくお伊勢さんの大麻だあー!」
これを聞くとみんなはびっくりして、たがいに顔を見合わせました。
「やっぱりそうだ。この二本の大松が人の形になって、伊勢神宮へお参りしたに違いない」
そうとわかってみれば、その宿代をほおって置くわけにはいきません。
村人は村中からお金を集めて、それを伊勢の宿屋へ送り届けたそうです。
おしまい
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