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9月29日の日本民話 2
ばくち打ちの男と天狗
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むかしむかし、とてもばくち好きな男がいました。
しかしこの男は、ばくち好きでも、ばくちが上手ではありません。
そのために死んだお父さんが残した財産を全部ばくちで負けてしまって、今では住む家も無い一文無しです。
男は山奥に小屋を立てて暮らしていましたが、こんな暮らしになってもばくちが忘れられません。
そこでサイコロを二つ取り出すと、男は一人でばくちの真似事を始めたのです。
「丁(ちょう)見たか? 半(はん)見たか?」
さて、この様子を高い松の木の上から天狗が見ていました。
「何だあいつ?
妙な事を言いよるな。
『京(きょう)見たか? 阪(はん)見たか?』だと。
・・・
はて、あんな小さな四角い物で、京都や大阪が見えるのだろうか?」
サイコロを知らない天狗は首をかしげると、木の上から降りてきて言いました。
「やい若造。
さっきから『京見たか? 阪見たか?』と言っていたが、そんな物で京都や大阪が見えるのか?
そうなら、おれにもちょっと貸してみろ」
それを聞いた男は、ある名案を思いつきました。
(ははーん。さては天狗の奴、おれの言葉を聞き間違えたな。それならそれを利用してやろう)
男はサイコロを、大事そうに隠して言いました。
「これはおれの宝だ。貸してもいいが持ち逃げされては困るので、天狗さんも何か天狗の宝を貸してくれないか?」
「・・・まあ、お前の言う事ももっともだな。よし、それなら天狗の宝を貸してやろう」
天狗はそう言うと、天狗の宝物を三つ差し出しました。
その宝とは、『天狗の羽うちわ』『天狗の隠れ蓑』『天狗の飛び羽』です。
『天狗の羽うちわ』は、鼻の高さを変える事が出来ます。
『天狗の隠れ蓑』は、着ると姿を消す事が出来ます。
『天狗の飛び羽』は、背中に付けると空を飛ぶ事が出来ます。
男は天狗とお互いの宝物を一日だけ交換すると約束をして、天狗の三つの宝を持って自分の小屋に帰って行きました。
自分の小屋に帰った男は、まず『天狗の飛び羽』を試してみる事にしました。
「確か、この羽を背中に付けて、飛びたいところを命じればいいんだな」
男は天狗の飛び羽を背中に付けると、大きな声で言いました。
「大阪へ行け!」
するとあっという間に、男は大阪の町の真ん中に立っていました。
「おおっ、これはすごい! さすがは天狗の宝だ」
喜んだ男がキョロキョロと辺りを見回していると、ちょうど大金持ちで有名な鴻の池(こうのいけ)の一人娘が、お供を連れて歩いていたのです。
「これは面白い、あの娘にいたずらをしてやろう」
男は着ると姿が消える『天狗の隠れ蓑』を身にまとうと、娘の後ろに近づきました。
そして、あおぐと鼻が伸び縮みする『天狗の羽うちわ』で、娘の鼻をパタパタとあおいだのです。
(娘の鼻よ、伸びろ)
すると娘の鼻がスルスルと、天狗の鼻の様に長く伸びました。
「ややっ! 長者の娘さんの鼻が、天狗の鼻になったぞ!」
まわりにいた人たちが、大騒ぎを始めました。
(しまった。いたずらがすぎたわ)
男は『天狗の羽うちわ』を反対向きに持つと、鼻が伸びてびっくりして泣いている娘さんの鼻をパタパタとあおぎました。
(娘の鼻よ、元にもどれ)
こうして男は娘さんの鼻を元に戻すと、再び『天狗の飛び羽』を背中に付けて今度は江戸に飛び立ちました。
そして男は浅草で見せ物小屋を開いて、自分の鼻を長くしたり短くしたりして大もうけをしたのです。
男は天狗の宝を使ってお金持ちになりましたが、でも時々、だまされた事に腹を立てた天狗が三つの宝物を取り返しに来るので、男はその度に『天狗の隠れ蓑』を使って姿を消したと言うことです。
おしまい
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