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12月17日の日本民話 2
アスナロの花
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むかしむかし、あるところに貧乏な男が美しい嫁と暮らしていました。
ある日の事、男が仕事で遠くへ出かけたすきに鬼がやってきて、美しい嫁をさらってしまったのです。
その噂を聞いて急いで家に帰ってきた男は、すぐに嫁捜しの旅に出かけました。
「嫁をさらったのは、鬼ヶ岳に棲む鬼という話だ」
男は三年かかって、ようやく鬼ヶ岳にたどり着きました。
鬼ヶ岳を登ると、そこには大きな鬼の館がありました。
(この時間なら、鬼は出かけているはず)
男は館の門に立てかけてあった鉄棒で、地面を三度、ドン、ドン、ドンと叩きました。
すると館の中から、夢にまで見た嫁が出てきたのです。
「お前、無事だったか!」
「あなた、迎えに来てくれたのね!」
二人は涙を流して、再会を喜びました。
「でもあなた、もうすぐ鬼が帰ってきます。見つかる前に、このカメの中に隠れて下さい」
嫁がそう言って男を大ガメの中に隠したとたん、鬼たちが帰ってきました。
鬼の親分はふと、館の前に咲いているアスナロという不思議な花を見て言いました。
「花が二つ咲いている。・・・お前、ここに人間の男がいるのか?」
このアスナロという花は、人間の男がいれば雄花が、人間の女がいれば雌花が人数分だけ咲いて、人間がいることを鬼に知らせるのです。
嫁がアスナロの花を見ると、嫁の分の雌花が一輪と男の分の雄花が一輪咲いていたのです。
(しまった!)
でも嫁は、すぐにニッコリ笑うと鬼の親分に言いました。
「それは、私のお腹に男の赤ん坊が出来たからでしょう」
すると、鬼の親分は大喜びです。
「それはでかした!」
鬼の親分は、仲間の鬼たちと祝いの酒盛りを始めました。
やがて酔いつぶれた鬼たちは、ぐーぐーといびきをかいて寝てしまいました。
「あなた、今のうちよ」
嫁は男を大ガメの中から出すと、男に刀を手渡しました。
その刀は、どんなに固い物でも切れる鬼の名刀です。
男がその名刀で寝ている鬼の首を切り取ると、男と嫁は鬼があちこちの村から盗んできた宝を持って自分たちの故郷へと帰りました。
そして二人は鬼の宝を売ったお金で、末永く幸せに暮らしたということです。
おしまい
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