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9月8日の世界の昔話
動物の言葉
スイスの昔話 → スイスの説明
むかしむかし、ワリス州という所に、年老いた伯爵と息子のハンスが住んでいました。
ハンスは、とても物覚えの悪い少年だったので、みんなはハンスを馬鹿にしていました。
ある日の事、伯爵は息子の将来を心配して言いました。
「ハンス、お前はこれから遠い国へ行って、しっかり勉強をして来なさい。お前には立派な三人の先生をつけてやるからな」
「はい、わかりました」
こうしてハンスは三人の先生の下で、何年も勉強をしたのです。
やがてハンスが帰って来ると、伯爵が尋ねました。
「ハンス、お前どんな勉強をしてきたのだね?」
するとハンスは、うれしそうにこう答えました。
「お父さん、ぼくは一生懸命に勉強をして、カエルと犬と鳥の言葉がわかるようになりました」
「なに? カエルに犬に鳥の言葉だと? それはもしかして、ゲロゲロ、ワンワン、チュンチュンか?」
「はい。そうです」
伯爵は、思わず頭を抱えました。
「わたしはそんなくだらない事に、あれほど高い金を払ったのか?
・・・もういい、お前はこれから、牛やヒツジの世話でもして暮らすがいい」
こうしてハンスは、伯爵に家を追い出されてしまいました。
ある日の事、ハンスが道ばたに座ってぼんやりしていると、二人の旅人が通りかかりました。
ハンスは、旅人たちに頼みました。
「ねえ、おじさんたち、ぼくを連れて行ってよ。お金はないけど、動物の言葉ならわかるよ」
「動物の言葉? 変な奴だが、まあ、一緒に来たいのなら来ればいい」
こうしてハンスは、旅人の仲間になりました。
三人が並んで歩いていると、沼のそばの草の上でカエルが鳴いていました。
それを聞いたハンスは、旅人たちに言いました。
「このカエルが、言っているよ。この先の村で女の人が病気で寝ているけど、自分たちの下に生えている薬草を飲ませると、すぐに治るって」
「何を馬鹿な。カエルがしゃべるはずがないだろう」
旅人たちが相手にしなかったので、ハンスは一人でカエルの下に生えている薬草をつみました。
三人が村につくと、本当に女の人が死にそうになっていました。
そこでハンスが取ってきた薬草を飲ませると、女の人はたちまち元気になったのです。
「あなたのおかげで、こんなに元気になりました。お礼に、金貨を差し上げましょう」
これを知った二人の旅人はハンスがにくらしくなって、さっさと先に行ってしまいました。
残されたハンスは、仕方なく一人で旅を続けました。
夕方になると、ハンスは近くのお城に一晩泊めて欲しいと頼みました。
すると城主が出てきて、ハンスに言いました。
「下の塔でよければ、泊めてあげよう。
ただし塔には血に飢えた恐ろしい犬がいるから、気をつけるんだよ。
実はさっきも、二人の旅人を食い殺してしまったんだ」
でも、ハンスは平気です。
「犬なら、言葉が話せるから大丈夫です」
次の朝、ハンスは無事に塔から出て来ると言いました。
「あの犬たちは、塔の下にあなたの先祖が埋めた宝物の見張りをしているそうです。
その宝物がなくなれば見張りの役目が終わるので、もう人を食い殺したりはしないそうですよ」
城主が塔の下を掘ると本当に宝物が出てきて、犬が急に大人しくなりました。
城主はとても喜ぶと、ハンスを手厚くもてなしてくれました。
やがてハンスは、ローマへ向かって旅に出ました。
ローマでは、ちょうど法王さまがなくなったので、誰を跡継ぎにしようかと人々がなやんでいました。
すると、ある神父が言いました。
「神さまの不思議な力が、法王さまになる方を教えて下さるでしょう」
ちょうどそこへ、ハンスが教会の扉を開けて入ってきました。
するとどこからか二羽のまっ白いハトが飛び込んできて、ハンスの肩に止まりました。
それを見た神父が、声高らかに言いました。
「あなたこそ、法王さまになるお人だ」
「えっ? ぼくが法王に?」
ハンスが困っていると、肩に止まった二羽のハトが言いました。
「ハンスさん、引き受けなさい。これがあなたの運命ですよ」
「そうですよ。あなたなら、立派な法王さまになれますよ」
「うん、わかった。それじゃあ、法王さまになるよ」
こうしてハンスは、法王さまになったのです。
おしまい
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