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11月5日の世界の昔話
ドロボウの名人
イギリスの昔話 → イギリスの情報
むかしむかし、あるお百姓さんに、ジャックという一人息子がいました。
ジャックは畑仕事が大きらいで、いつも遊んでばかりいます。
ある日、お百姓さんがジャックに言いました。
「いつまでも遊んでばかりいないで、少しは仕事をしろ!」
そこでジャックは、仕事を探す旅に出かけました。
ジャックが森を歩いていると、日が暮れてきました。
「どこかに、泊めてくれるところはないかな?」
すると運良く、森の中に一軒の家がありました。
「こんばんは」
ジャックが家のドアを叩くと、中からおばあさんが出てきました。
「なんか、用かね?」
「はい、今夜泊めてほしいのです」
「泊めるなんて、とんでもない」
「どうして?」
「ここは、ドロボウうの家じゃ。今はるすじゃが、帰ってきたら何をされるかわからんぞ」
「そいつは、ちょうどいいや。おれはドロボウの親分になりたくて、子分をさがしていたんだ。とにかく、泊めてもらうよ」
ジャックはおばあさんにごちそうを作らせると、それをお腹一杯食べて眠ってしまいました。
朝になってジャックが目を覚ますと、こわい顔をした六人の男たちがベッドの回りに立っていました。
でもジャックは少しもあわてず、男たちに言いました。
「やあ、みなさん。おはよう」
するとドロボウの親分が、ジャックに怒鳴りました。
「やい、やい、てめえは誰だ!? 何しにきた!?」
「おれは、ドロボウの親分さ。役に立つ子分を探しているんだ。お前たち、おれの子分にならないか?」
「ふん、おもしれえやつだ。いいだろう、おれとてめえと、どっちがドロボウの親分にふさわしいか腕比べをしようじゃねえか」
「よし、いいだろう」
ジャックはベットから飛び起きると、まどの外を見ました。
するとちょうど、お百姓さんがヤギを連れて歩いていました。
ジャックは、ドロボウたちにたずねました。
「あの男が森を通りぬける前に、あの男に乱暴をしないでヤギを盗んでこられるか?」
「そいつは、むりだ」
「おれにも、出来ねえ」
ドロボウたちは、首を横にふりました。
「それなら、おれがやってみせよう」
ジャックはお百姓さんの先回りすると、道のまん中に自分の右のくつを置きました。
それからもう少し先に、残りの左のくつを置いてかくれました。
そこへヤギを引いたお百姓さんが、通りかかりました。
お百姓さんは、落ちている右のくつを見つけましたが、
「片方だけじゃ、使い物にならねえな」
と、通り過ぎていきました。
そして少し先へ行って、左のくつを見つけました。
「おや? さっきのくつをひろってくれば、ちゃんと一足そろうぞ。よし、先にさっきのくつをひろってこよう」
お百姓さんは近くの木にヤギをつなぐと、今来た道をもどって行きました。
「しめしめ」
出てきたジャックはくつをひろうと、左足にはきました。
右足にはすでに、先にひろってきたくつをはいています。
こうしてジャックはヤギを手に入れて、ドロボウの家へ帰りました。
これにはドロボウたちも、びっくりです。
次の朝、あのお百姓さんが、今度は牛を連れてやってきました。
ジャックはドロボウたちに、また聞きました。
「どうだ、お前たち。あの太った牛を、乱暴しないでうまく盗めるか?」
「いや、出来ねえ」
ドロボウたちは、みんな首を横にふりました。
「よし、それならおれがやってやろう」
ジャックは昨日ぬすんだヤギを連れて、出かけて行きました。
お百姓さんが昨日の場所にさしかかると、ヤギの鳴き声がします。
メエー、メエー。
「おや? この鳴き声は、昨日いなくなったうちのヤギだ」
ヤギの声は、そんなに遠くありません。
「ありがてえ。ヤギのやつ、まいごになったんだな」
お百姓さんは牛を木につなぐと、ヤギの声がした方へかけて行きました。
そのすきにジャックはヤギを連れてもどると、木につないであった牛を手に入れたのです。
ジャックが牛とヤギを連れて戻ってきたので、ドロボウたちはジャックを親分とみとめました。
「ジャックは、おれたちの親分だ!」
そしてドロボウたちは、今までに盗んだお金や宝物のかくし場所をジャックに教えたのです。
それから何日かして、六人のドロボウたちはジャックの命令で仕事に出かけました。
「しめしめ、今のうちだ」
ドロボウたちがいなくなると、ジャックは宝のかくし場所へ行きました。
そして袋に、お金や宝物をつめこみました。
それからジャックは留守番のおばあさんにたくさんのお金をやって、ドロボウの家から逃がしてやりました。
またジャックはお百姓さんに、牛とヤギを返してやりました。
ヤギの首には、おわびの金貨を十枚入れた袋をつけて。
こうして大金持ちになったジャックは、宝の袋をかついで家へ帰りました。
「ただいま、お金をかせいできたよ」
お父さんはたくさんのお金と宝を見てびっくりしましたが、ジャックからわけを聞いて安心しました。
ある時、ジャックがお父さんに言いました。
「父さん。地主さんの娘をおれのお嫁さんにしたいから、地主さんに話してきてよ」
「とんでもない! 村一番の金持ちの地主さんに、そんな事が言えるか」
「お金だったらおれだって、たくさん持っているじゃないか」
「それはそうだが、その金はどうしたと聞かれたらどうする?」
「その時は正直に、ジャックは世界一のドロボウの名人で、ドロボウからドロボウしてきたと言えばいいさ。別に、普通の人からドロボウした訳じゃないんだから」
「うーん」
仕方なくお父さんは出て行くと、お昼過ぎには帰ってきました。
「どうだった、父さん」
「ああ、お前がドロボウの名人だと言うとおもしろがって、今度の日曜日に、丸焼きにしているガチョウを盗む事が出来たら娘さんをお前にくれると言っていたぞ」
「あははは。そんな事、わけないよ」
さて、その日曜日。
地主さんの家族はみんな台所に集まって、ガチョウが焼けるのを待っていました。
そこへ、袋を背負った老人が現れました。
「だんなさま。何か、おめぐみください」
「後でな。食事がすむまで、外で待っていろ」
地主さんが言うと、外に行きました。
するとその時、召使いの一人がまどの外を見て、大声でさけびました。
「だんなさま! 庭にウサギが一匹いますよ。捕まえてきましょうか?」
「そんなもの、ほうっておけ」
「あっ、もう一匹、飛び出してきたぞ」
「いいから、ほうっておけ」
「わあっ、また一匹! ああっ、今度で四匹目だ! あああっ、五匹目も!」
「なに、五匹もいるのか。よし、みんなで捕まえろ!」
地主さんの命令で、台所にいた者はみんな庭へ飛び出して行きました。
実は、さっきの袋を背負った老人はジャックの変装で、袋に入れていたウサギをジャックが庭に放したのです。
「ええい、何をしておる! ウサギはな、回り込んで捕まえるのだ!」
なかなかつかまらないウサギに地主さんはイライラしていましたが、ジャックにガチョウを盗まれては大変なので、ガチョウのそばから離れる事が出来ません。
「ああ、誰かガチョウを見張ってくれる者がいたら、おれがウサギを捕まえるのに」
するとそこへ、老人に化けたジャックが声をかけました。
「だんなさま。おめぐみは、まだいただけないのですか?」
「ああ、ちょうどいい。この銅貨をやるから、しばらくガチョウを見張っていてくれ!」
「はい。かしこまりました」
しばらくして五匹のウサギを捕まえた地主さんが台所にもどってくると、丸焼きのガチョウも老人も見事に消えていました。
「しまった! あの老人は、ジャックだったか。してやられたわい」
そこへ、ジャックからの使いが来ました。
地主さんと家族のみんなを招待して、ごちそうをしたいというのです。
行ってみるとごちそうに、あのガチョウの丸焼きが出てきました。
地主さんは、苦笑いしながら言いました。
「ジャック、もう一度勝負だ。今夜、うちの馬を五頭ぬすんでみろ。それが出来たら娘をやろう」
「おやすいごようです」
その夜、地主さんは馬一頭に一人ずつの見張りをつけました。
「これなら、ジャックも手が出せまい」
この日はとてもさむい夜でだったので、男たちはブルブルふるえながら馬を見張っていました。
そこへ、おばあさんに変装したジャックが現れました。
「ああ、今日はさむいねえ、さむくてこごえ死んでしまうよ。ねえ、あんたたち、馬小屋のすみっこでもいいから、一晩寝かしておくれよ」
「いいとも」
「ところでみなさん、いかがです。こんな寒い晩は、これがなによりで」
おばあさんはふところからお酒を取り出して、男たちにすすめました。
「いやあ、ありがてえ。すまんな、ばあさん」
体がひえきっていた男たちは、よろこんでお酒を飲みました。
そして間もなく、男たちはいびきをかいて眠ってしまいました。
実はお酒の中に、ねむり薬が入っていたのです。
そのすきにおばあさんは五頭の馬にくつ下をはかせて、足音を立てないようにしずかに外へ連れ出しました。
次の朝、馬を見事にぬすまれた地主さんは、地面をけってくやしがりました。
「ジャック、もう一度勝負だ! 今日のお昼の一時から三時まで、わしは馬に乗っておるから、その馬を盗んでみろ。それが出来たら、娘をやろう」
「はい、おやすいごようです」
お昼すぎ、地主さんは馬に乗ってジャックが来るのを待っていましたが、ジャックはなかなか現れません。
「さすがのジャックも、乗っている馬は盗めないだろう」
そこへ、召使いの娘が青く顔でやって来ました。
「だんなさま、大変です! おじょうさまが階段からころげおちて、大けがを!」
「なに、娘が大けがじゃと! お前はすぐに、医者をよんでこい。そうだ、この馬に乗って行け! 早くな!」
地主さんがあわてて家に帰ると、大けがをしたはずの娘が笑顔で出迎えました。
「あら、お父さま、どうなさったのですか? そんなに血相をかえて」
「なに? ・・・そうか! わしとした事が!」
そこへ召使いの娘姿のジャックが、地主さんの馬を引いてやって来ました。
「地主さん、勝負はわたしの勝ちですね。では約束通り、おじょうさんを」
「いいや、もう一度勝負だ!」
何度も勝負を繰り返す地主さんに、ジャックは少しあきれて言いました。
「やれやれ、またですか?」
「これが最後の勝負だ!」
「はい、けっこうですとも。それで、今度は何ですか?」
「今夜、わしが寝ているベッドのシーツを盗んでみろ。これが出来たら、本当に娘をやる」
「きっとですね。もしうそだったら、今度はおじょうさんを盗んで逃げますからね」
その晩、地主さんがベッドで寝たふりをしていると、窓に人影がうつりました。
「ジャックだな。バカなやつめ。」
地主さんは鉄砲を持ち出すと、人影にねらいをつけました。
「まあ、あなた。まさか、あの若者を撃つつもりじゃないでしょうね」
奥さんが言うと、地主さんはにやりとわらいました。
「安心しろ、玉は入っておらん。おどかしてやるだけだ」
そういって地主さんは、鉄砲の引き金を引きました。
ズドーン!
鉄砲が火をふくと、鉄の玉が窓を突き破って人影に命中しました。
ドサッ!
窓の外で、人が倒れたような音がしました。
「まあ、どうしましょう! あなた、ジャックが死んでしまったわ!」
「まさか、鉄砲には、少量の火薬しかつめていなかったのに」
地主さんはあわてて階段を下りると、家の外に出て行きました。
それから間もなく、窓の外からあわてた声がしました。
「シーツだ! シーツをよこせ!」
「あなた! いったいどうしたのですか!」
「ジャックが大けがをして、血が止まらないんだ! シーツでほうたいをしなくちゃ!」
奥さんは大急ぎで、ベッドのシーツを窓の外に放り投げました。
すると声の主はシーツを受け取って、どこかへ行ってしまいました。
やがて地主さんが、部屋に戻って来ました。
「ええい! またしても、ジャックにだまされたわい」
「だまされたって? ジャックが大けがをしたんじゃありませんの?」
「とんでもない。窓の外に倒れていたのは、わら人形だったわい」
「じゃあ、さっきのシーツは、どうしまして?」
「シーツだと? おい、シーツがどうしたんだ!」
「あなたの言いつけで、わたしが窓から放ってあげたでしょう」
「ばかもん! わしはそんな事を言っていないぞ!」
「では、誰が?」
「・・・そうか、ジャックのやつだな。火薬しか入っていない鉄砲に玉を入れたのも、シーツを投げろと言ったのも。・・・うーん、頭の良いやつめ。くやしいが、あいつの勝ちだ」
こうしてジャックは、めでたく地主さんの娘と結婚したのです。
それからのジャックは人が変わった様にまじめに働き、地主さんにも可愛がられたということです。
おしまい
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