|
|
福娘童話集 > きょうの世界昔話 > 11月の世界昔話 > お墓にはいったかわいそうな少年
11月8日の世界の昔話
お墓にはいったかわいそうな少年
グリム童話 → グリム童話の詳細
むかしむかし、両親に死なれたヒツジ飼いの少年が、お金持ちの百姓(ひゃくしょう)の家で暮らす事になりました。
ところがこの百姓夫婦は、大変なけちん坊でいじわるだったのです。
ですから少年がどんなに働いても、ご飯を少ししか食ベさせてもらえませんでした。
ある日、少年はメンドリとヒヨコの番をするように言われました。
ところがハヤブサがメンドリにおそいかかってするどいツメでつかむと、そのままどこかへ飛んで行ってしまったのです。
「だめだよー! メンドリを返してよー! 返してくれないと、また怒られてしまうよー!」
しかしハヤブサは、メンドリを返してはくれませんでした。
そのさわぎを聞きつけて、百姓が飛び出してきました。
そしてメンドリがさらわれた事を聞くと、
「この役立たず!」
と、少年を何度も何度もなぐりつけました。
ひどくなぐられた少年は、三日間も起き上がる事が出来ませんでした。
しばらくすると少年は、ヒヨコの番をするように言われました。
「今度はハヤブサが来ないように、ずっと見張っていなくっちゃ」
はじめのうちはがんばっていたのですが、お腹がぺこぺこだった少年は疲れてしまい、ついいねむりをしてしまいました。
するとそのすきにハヤブサがまいおりてきて、ヒヨコを全部食べてしまったのです。
少年はまた百姓にひどくなぐられて、何日も起き上がる事が出来ませんでした。
しばらくたって少年が何とか歩けるようになった時、百姓が言いました。
「お前みたいなバカなやつに、番人はつとまらん。だから代わりに、使いに行ってこい」
百姓はブドウを入れたカゴと手紙を少年に持たせると、裁判官(さいばんかん)のところヘお使いにやりました。
お使いの途中、お腹がぺこぺこだった少年はカゴのブドウを見て、つばを飲み込みました。
「ああ、おいしそうなブドウだな。・・・これだけあるんだ、少しぐらいなら食べても大丈夫だろう」
少年はブドウの粒を、二粒食ベてしまいました。
少年が裁判官にブドウのカゴと手紙を渡すと、裁判官はその手紙を読みました。
「なになに、『カゴのブドウは百粒あります。必ず数を数えてから食べてください』か」
そこで裁判官がブドウの粒を数えると、少年が食べた二粒がたりません。
すると少年は、
「ごめんなさい。お腹がぺこぺこで、二粒食べました」
と、正直に謝りました。
すると裁判官はわらいながら、百姓に手紙を書いてくれました。
《少年にもっと食べ物をやって、大事に世話をしなさい》
さて、裁判官からの手紙を読んだ百姓は、少年にこわい顔で言いました。
「このバカ者め! よくもわしにはじをかかせたな! よし、いいだろう。食べ物はやるが、その代わりにもっと働くんだ!」
こう言って百姓は、少年につらい仕事を言いつけました。
それはウマのかいば(→エサのこと)にするために、ワラをこまかく切る仕事です。
「裁判官の手紙にめんじて、お前に食べ物をやろう。わしは五時間たったら帰ってくるから、その時までに全部のワラを切っておけ! 少しでも残っていたら、指一本動かなくなるまでぶんなぐってやるからな!」
そう言って百姓は少年にパンの入った包みを投げつけると、町へ出かけていきました。
「わあ、パンだ」
少年が喜んでパンの包みを開けると、中に入っていたのは小さな小さなカビだらけのパンでした。
少年の仕事はとてもお腹が空く仕事なのに、こんな小さなパンでは体がもちません。
でも仕事をしないとまたなぐられてしまうので、少年はカビだらけのパンを口に入れると一生懸命にワラを切り始めました。
「はあ、はあ、それにしても、お腹が空いたなー」
お腹が空いてフラフラだった少年は、ワラといっしょに自分の上着を切っている事に気がつきませんでした。
「急がないと、だんなが帰って来るまでに終わらないぞ。少しでも残すと、またなぐられるからなあ。・・・ああっ! しまった!」
少年が上着を切っている事に気がついた時には、上着はバラバラになっていました。
「ああっ、ぼくはもうだめだ。だんながこれを見たら、きっとぼくが死ぬまでなぐり続けるだろう。・・・ひどくなぐられて死ぬぐらいなら、いっそ自分で死んでしまおう」
少年はおかみさんがいつも『ベッドの下に、毒(どく)のツボをかくしておいた』と、言っているのを思い出しました。
本当はそれはハチミツで、おかみさんはぬすみ食いをされるといけないと思ってうそをついていたのです。
「そうだ、毒を食べて死のう。その方が、なぐられて死ぬより痛くないだろう」
少年はベッドの下にもぐりこんでツボを取り出すと、中身を食ベはじめました。
「おや? 毒って、にがい物だと思っていたけど、これはあまいや」
ハチミツを全部食べ終えた少年は、小さなイスにすわって死ぬのを待ちました。
けれど栄養(えいよう)のあるハチミツを食べたので、少年は死ぬどころか反対に元気になっていくのに気がつきました。
「これはきっと、毒じゃあなかったんだ」
次に少年は、洋服ダンスにかくしてあるビンを取り出しました。
「だんなが、ハエとりの毒を洋服ダンスに入れたと言っていたけど、これがそうだな。よし、これを飲んで死のう」
けれどもそれはハエとりの毒ではなく、ブドウ酒だったのです。
少年はブドウ酒を、グイッと飲みほしました。
「ヘーえ。この毒もあまいや。もしかするとこれも、毒じゃなかったのかな?」
けれどもそのうちにブドウ酒に酔っぱらってきて、少年の頭がボンヤリとしてきました。
「やっぱり、これは毒だったんだ。よし、今度こそ死ぬような気がするぞ。死ぬ前に墓地(ぼち)へ行って、お墓の穴をさがすとしよう」
少年はフラフラしながら、近くの墓地へ行きました。
そして誰かがほったばかりの穴を見つけると、中に入って横になりました。
ブドウ酒がどんどんまわってきて、少年はだんだん気が遠くなっていきました。
墓地の近くには料理屋があって、ちょうどそこで結婚式をあげていました。
その結婚式の音楽を聞いた少年は、ここが天国だと思いました。
「ああ、よかった。ブドウをぬすみ食いしたから地獄に行くと思ったけど、ぼくは天国に来たんだ。お父さん、お母さん、もうすぐ会いに行くからね」
そして少年は気を失い、そのまま夜の寒さにこごえ死んでしまいました。
それから数日後、いなくなった少年が墓地で死んでいたと聞いて、百姓はビックリしました。
「いったい、どうすればいいんだ!?」
それは少年がかわいそうだったわけではなく、裁判官に怒られると思ったからです。
そしてどう言い訳をしたらいいだろうかと、百姓は台所で料理を作っていたおかみさんを呼んで話し合いました。
するとその間に台所の火が燃え上がって、百姓の家は火事になってしまったのです。
百姓夫婦は何とか逃げ出して無事でしたが、家も財産も全て燃えてしまったため、それからは貧乏でみじめに暮らしたという事です。
おしまい
|
|
|