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11月18日の世界の昔話
美しい顔
ジャータカ物語 → ジャータカ物語について
むかしむかし、インドのある国に、とても美しい娘がいました。
父親はこの美しい娘をとても可愛がっていたのですが、ある日、娘が父親の大切な茶わんを割ってしまったので、父親は娘をきつくしかりつけました。
すると娘は、しくしく泣きながら家を飛び出すと、
「こんな家、もう二度と帰らないわ!」
と、山へ行って、松の木に登りました。
その松の木の下にはきれいにすんだ小さな湖があり、娘が上からのぞくと美しい娘がうつりました。
「あら、きれい」
娘は泣くのをやめて、水にうつった自分の美しい顔をあきずに見つめていました。
そこへ肩に水がめをかついだ一人の召使いが、水くみにやってきたのです。
召使いは水をくもうとかがんだ時、水にうつっている美しい顔に気がつきました。
召使いはその美しい顔を、自分の顔と勘違いしたのです。
「まあ、わたしの顔は、何てきれいなんでしょう」
召使いは水をくむのも忘れて、水にうつった美しい顔をうっとりとながめながら考えました。
「わたしはこんなにきれいになったんですもの、もう召使いなんかやる事はないわ。水くみなんで、ごめんよ」
召使いはそう言うと、持っていた水がめを地面にたたきつけて割ってしまいました。
そしてすっかり得意になった召使いは、元気よく主人の家に帰りました。
「ご主人さま、ただいま」
「ああ、お帰り。・・・おや? 水くみはどうしたんだい?」
「ご主人さま。わたしはいつの間にか、ずいぶんと美しくなっていました。もう召使いなど、いたしませんわ。だから水くみも、いたしませんわ」
それを聞いた主人は、不思議そうに召使いをながめました。
「美しい? お前、もしかして目が悪くなったのかい?」
「いいえ、目は悪くありませんわ。だって、わたしの美しい顔が水にうつっていたのが、よく見えましたもの」
「お前、お願いだからもう一度湖へ行って、水をくんできなさい。そしてもう一度、自分の顔を見てごらんなさい」
主人はそう言って、嫌がる召使いに水がめを渡しました。
「もう! 今度だけですからね!」
召使いは腹を立てながら、また山の湖へ行きました。
鏡のような湖の水をのぞくと、やっぱり美しい顔がうつっていました。
「ほら、やっぱりわたしは、本当に美しくなったんだわ」
召使いは安心すると、また水がめを地面に投げつけて割りました。
するとこの様子を木の上からながめていた美しい娘は、おかしくなって思わず笑いました。
「ふふふっ」
するとそれに合わせて、水にうつっている美しい顔も笑います。
「あら? わたしは笑っていないのに、どうして水にうつっているわたしが笑うの?」
召使いは、はっとして松の木を見上げました。
するとそこには水にうつっている顔と同じ美しい娘が、にこにこ笑っていたのです。
「もしかして、今までわたしの顔と思っていたのは?!」
召使いは自分の勘違いにはずかしくなり、手ぬぐいで顔を隠すと一目散に逃げてしまいました。
おしまい
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