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12月6日の日本の昔話
  
  
  
  貧乏神
 むかしむかし、藤兵衛(ふじへいえい)という、お百姓(ひゃくしょう→詳細)がすんでいました。
   この藤兵衛どん、はたらいてもはたらいでもくらしはらくにならずに、ふえるのは子どもばかりです。
   そのうち、とうとうはたらく気もなくなってしまいました。
   ある年の冬、藤兵衛どんの家では、子どもたちに食べさせるものが、なにもありません。
  「おっかあ、はらへったよう」
  「おらもだ、かゆはねえだか」
  「はらへって、ねむれねえだ」
   子どもたちに口々にねだられても、藤兵衛どんにはどうすることもできません。
  「みんな、よく聞いてくれ」
   藤兵衛どんは、子どもたちをあつめて、悲しそうな顔でこんなことをいいました。
  「いままでくろうして、いっしょうけんめいはたらいてきたが、くらしはいっこうにらくにならん。この冬がこせるかどうかもわからん。そこで、おっかあとも相談したんじゃが、この土地をすててどこかよそにいってくらすことに決めたんじゃ」
  「それじゃ、おっとう、夜にげか?」
  「ま、そういうことじゃな、すまねえな。いま出ていくと人目につくで、明日の朝早うに出でいこうと思っとる」
   その夜、藤兵衛一家は、なべやかまをふろしきにつつむと、まくらもとにおいてねました。
   ところが、夜中に便所にいこうとした藤兵衛は、なやでなにかゴソゴソとやっている、見知らぬ男に気がつきました。
  「お、おまえはだれじゃ?」
  「おや、まだ起きとったかね? わしゃ、貧乏神(びんぼうがみ→詳細)じゃ」
  「び、貧乏神じゃと?」
  「そうじゃあ、長いことこの家にいさせでもろうた」
  「そ、それで、こんなところでなにをなさっているだか?」
  「この家の者が、明日の朝早くに、ここからにげだすっちゅうんで、わしもいっしょに出かけようと思ってのう。ほんで、こうしてわらじ(→詳細)をあんどったんじゃあ」
  と、貧乏神は、あみかけのわらじを見せました。
  「それじゃ、この家から出ていくというだか?」
  「そうじゃあ。またつぎのところでもなかようしてくだっせえ」
  「なんじゃあ、それじゃあ、わしらについてくるちゅうだか?」
  「そういうことじゃ」
   藤兵衛は、あわてて家にかけもどると、かみさんを起こしました。
  「た、たいへんじゃあ。起きろ!」
   夜中にたたき起こされたおかみさん。ねむい目をこすりながら。
  「どうしたとね、なにをねぼけておる」
  「び、貧乏神じゃ。う、うちのなやに貧乏神がおる」
  「貧乏神が? それでうちは、いつになってもくらしむきがようならんかったんか」
  「うん、うん。そうじゃな」
  「でも、いいでねえか。おらたちはこの家を出ていくんだから。貧乏神さまだけのこってもらえば、おらたちはこれかららくになるでねえか」
  「それがちがうんじゃ! わしらについてくるっちゅうだ!」
  「えっー! ほんなら、おらたち夜にげしても、なんもならんでねえか」
  「そういうことじゃなあ」
   二人はガッカリです。
   家を出ていく元気もなくなってしまいました。
   そして、夜が明けました。
   貧乏神はこしにわらじをつけ、出発の用意をして藤兵衛どんたちを待っておりましたが、いつになっても出てきません。
  「おそいなあ。もう、日ものぼるというのに、どうしたんかいなあ。たしかに、けさ、にげだすちゅうことじゃったが。もしや、あすじゃったかのう? まあ、ええわい。わらじはよけいあるほうがええわ」
   貧乏神は、またなやに入ってせっせとわらじをあみだしました。
   一日がすぎて、一日、また一日と、日がたちましたが、藤兵衛どんは、いっこうに家を出ていくようすがありません。
   貧乏神は、毎日わらじをあみつづけていましたが、そのうちに、わらじ作りがおもしろくなってきて、いつのまにやら、のきさきに、わらじがドッサリとたまってしまいました。
   こうなると、人目につきます。
   そのうち、わらじをわけてくれと、村の人がくるようになりました。
   貧乏神はきまえよく、
  「さあ、どれでもすきなのを持っていきなされ」
  「すまんのう。ありがとよ」
  「ありがたいこっちゃあ」
   村の人はつぎつぎにやってきて、大よろこびでわらじを持って帰ります。
   それを見ていた藤兵衛どんは、いいことを思いつきました。
  「おお、そうじゃ。あのわらじを売ればいいんじゃ」
   さっそく藤兵衛どんは、貧乏神のあんだわらじを持って、村へ町へと売り歩きます。
  「さあ、安いよ、安いよ。じょうぶなわらじだよ」
   わらじは、どこへいってもとぶように売れ、たちまちなくなってしまいました。
   だけど、くらしむきはすこしもよくなりません。
  「やっぱり貧乏神がいては、貧乏からぬけだせんなあ。こうなったら、貧乏神さまに出ていってもらうだ」
   そこで藤兵衛どんは、わらじを売ったのこりの金で、ありったけの酒やごちそうを用意して、貧乏神をもてなしました。
  「貧乏神さま、きょうはゆっくりやすんでくだされ。さあ、えんりょのう食べて、飲んでくだされ」
  「これはこれは、たいへんなごちそうじゃなあ」
  「貧乏神さまには、いつもくろうしてもろうておるで」
   おかみさんも、貧乏神におしゃくをしながらいいました。
  「そうじゃ、わらじをあんでくださるで、このごろはたいそうくらしもらくになったでなあ」
  「さあ、きょうはいっしょにいわってくだされ」
  「そうかそうか。それじゃ、よろこんでいただくとしようかね」
   貧乏神はすすめられるままに、食べたり飲んだり。
  「いや〜、すっかりごちそうになってしもうて。だけど、こげんくらしむきがよくなっては、わしゃもう、この家にはおれん」
   貧乏神は、そういうと家から出ていきました。
   二人は顔を見合わせて、大よろこびです。
  「出ていった。わしらも、これでやっとらくになれるぞ」
  「よかった、よかった」
   こうして、藤兵衛どんとおかみさんは、安心してグッスリねむりました。
   ところが、いつものように夜中にべんじょにいった藤兵衛どんはビックリ。
   出ていったはずの貧乏神が、いるのです。
  「ま、まだ、いたのか!」
   貧乏神は藤兵衛どんを見てニッコリ。
  「ここが、いちばんすみやすいのでな」
   しつこい貧乏神に、藤兵衛どんはすっかり力をなくして、その場にへたりこんでしまいました。
   それからも貧乏神は、藤兵衛どんの家でわらじ作りにせいを出しいるということです。
おしまい