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7月31日の日本民話

鳥になったかさ屋

鳥になったかさ屋
大阪府の民話

 むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪東部)に、かさ屋のまさやんという若者がくらしていました。
 まさやんは毎日毎日、ただ、だまってかさをはりつづけておりました。
「おーい、まさやん、せいが出るのう」
「ああ、おかげさんで」
 まさやんは、通りがかりの村の人が声をかけたときだけしか声を出しません。
 天気のよい日には表に道具を出して、空をとぶ鳥を見あげながらしごとをするのが、まさやんのたった一つの楽しみです。
「気持ちええやろなあ。あんなふうに空をとべたらなー」
 そんなある日の事、かさが一つ風にとばされてしまいました。
 かさが一本でもなくなれば、その日はごはんが食べられません。
「うわっ、待てえ!」
と、とんでいくかさを、まさやんはひっしでおいかけました。
「とっ!」
と、かさにとびつくと、まさやんのからだはフワッと宙にうきました。
 でも、すぐに地面におちてしまいました。
「おお、いたっ!」
 ドスンと打ったおしりをなでながら、しばらくポカンと空を見あげていたまさやんは、ふと、おもしろいことを思いついたのです。
「そうや、これや!」
 それから、三日がたちました。
(ようし、これから、空をとんでみせる)
 まさやんは屋根の上に立って、かさをひろげました。
 これを見た村の人たちは、おどろいて屋根の下にあつまってきました。
「おーい、まさやん、そんなところにのぼって、何をはじめるんじゃい?」
「へい。これから空をとぼうと思いますねん」
「空をとぶ? そんなアホなこと、やめとかんかい」
「そやそや、あぶないで」
 みんながとめるのも聞かず、まさやんはとびました。
 いえ、とんだつもりです。
「うっ、ういたぞ、ういたぞ」
と、思ったとたん、見物人の目の前にドスーン。
「まさやん、けがはないか?」
 まさやんは、ちょっぴりはずかしそうに頭をかきながらいいました。
「へへへ、だいじょうぶや。だいじょうぶや」
 それからというもの、まさやんは空をとぶことにむちゅうで、夜も昼もその事ばかり考えていました。
「そうや、もっともっと大きいのをつくらんと。大きくてじょうぶなやつを」
 まさやんは商売のかさはりをほうりだして、ごはんが食べられなくても気にしません。
 はらがへれば水をのんで、夜中までむちゅうになって空とぶかさづくりをつづけます。
 それから、何日目かの朝の事です。
「でけたぞう。これだけ大きければ、まちがいあらへん。そや、こんどは屋根より高いところからとんでみよう」
 まさやんは大きなかさを持って、えっちらおっちら歩きだしました。
 まさやんのお目あては、村で一番高いスギの木です。
「でっかいかさやなあ。またとぶつもりやで」
「こんどはこの上からとびおりるんか? あんな高いところからとんだら、死んでしまうがな」
 心配した村の人たちが、いっしょうけんめいとめましたが、まさやんはすこしも気にせずニッコリわらって、スギの木のてっぺんへとのぼっていきました。
「うわあ、高いなあ。こうしてながめると、家も人間も小さいもんや。あんな小さな家の中で、ゴチャゴチャいうてくらしとるんかいなあ。それにくらべて、烏たちは広い広い空でせいせいしとるんやろなあ」
 そしてとうとう、まさやんはかさをひろげました。
「うわっ、かさひろげよった!」
「うわっ、とびよった!」
「こんどこそ、とぶんか!」
と、思ったけれど、またまたしゅっぱいです。
 でもまさやんは、それでもこりません。
 夜になると、またゴソゴソなにかをはじめました。
「数をふやせばだいじょうぶや」
 次の日、まさやんはまた、スギの木の上へのぼりましたが、またもやわらの上ヘドスーン!
 これを何回くりかえした事でしょうか。
 何回やっても失敗するので、いまではもう、見物人もあつまりません。
 しかし、まさやんはかさをかついで、今日も出かけていきます。
 村の人たちは、あきれ顔でいいました。
「まだやっとる」
「病気じゃのう」
「アホや」
 まさやんは、今日もスギの木の上に立ちました。
 でも、いつもとちがって、すぐにはとびません。
 なにやら、待っているようすです。
 しばらくして、ソヨソヨとスギの葉が風でゆらぎます。
「きたきた、でも、まだとばんでえ」
 だんだん風が強くなってきました。
「よし、いまや!」
 まさやんはとびました。
 フワリ。
 ひろげたかさと一緒に、空へまいあがります。
「やった! 鳥や、これが鳥の気分や。せいせいするでえ。あはは」
 まさやんが空をとんだうわさは、殿さまの耳にもとどいて、村は大さわぎとなりました。
 まさやんの家には、おおぜいの人たちがあつまってきました。
「まさやん、殿さまが空とぶかさを買いたいんやと。お金はなんぼでも出すと。殿さまは、そのかさで敵の城を空からせめるおつもりなんや」
「それがうまくいってみい。まさやんはお城づとめや。いやいや、侍大将ぐらいになれるかもしれん」
 あんなにまさやんの事をバカにしていた村の人たちも、みんなでまさやんをほめはじめました。
「たいへんな出世や。うらやましいなあ」
 ところがまさやんはというと、とってもこまったようすです。
「えらいことになったなあ。いっそ、このかさをこわしてしまおうか。いやいや、そんなことしたら、お殿さまのいいつけにそむいたと、殺されてしまうわ」
 まさやんは、ただ自分が空をとびたくてつくったかさが、いくさの道具につかわれるのがいやだったのです。
 ひとばん考えたまさやんは、次の日のタ方、かさをかかえてコッソリ家をぬけだすと、スギの木のてっぺんから秋の夕空高くとびたちました。
 かさをひろげてとぶ人間を見て、鳥たちはビックリ。
「鳥よ。一緒にいこか」
 かさ屋のまさやんは、そのまま消えてしまったという事です。

おしまい

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