|
 |
2年生の江戸小話(えどこばなし)

まんじゅうこわい
町内(ちょうない)の若い者(わかいもの)が、二、三人より集(あつ)まって、おしゃべりをしていますと、やせた、青白い顔(かお)の男が、はあはあと息(いき)をきらせて、飛(と)びこんできました。
「たっ、た、助(たす)けてくれ」
男は、ガタガタとふるえております。
「どうした、どうした」
みんなが、男を取(と)りかこんでききますと、男は、
「うしろから、まんじゅう売(う)りが、やってくる」
「・・・?」
「じつは、おれはまんじゅうが、どうしても、こわくてこわくて。は、早く、どこかへかくしてくれ」
と、いうので、ひとまず物置(ものおき)にかくしてやりましたが、いたずらずきの一人が、
「どうも、おかしなやつだ。ひとつ、いたずらをしてやろうじゃないか」
さっそく、まんじゅう屋(や)からまんじゅうを買(か)い、おぼんに山もりにつんで、物置(ものおき)の中へ入れると、戸(と)をぴしゃりとしめて、おさえていました。
ところが、しばらくたっても、物音(ものおと)ひとつしません。
「さては、こわがって、気を失(うしな)ったかな?」
と、戸(と)をあけてみると、中の男は、まんじゅうをのこらず食(た)べてしまい、口のまわりのあんこを、べろべろなめています。
「あれっ? おまえをおどかしてやろうとおもったのに、食(たべ)っちまうとは、どこがこわいんだ?」
と、いうと、男は、
「今度(こんど)は、お茶(ちゃ)がこわい、お茶(ちゃ)がこわい」
おしまい

|
 |
|