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      2008年 5月12日の新作昔話 
        
        
       
ダンスパーティーの幽霊 
イタリアの昔話 → イタリアの情報 
       むかしむかし、北イタリアのパヴィーアという町で、ある娘が二十歳で亡くなり、恋人だった若者はすっかりふさぎこんでしまいました。 
         心配した友だちがよびにいっても、家にこもったきり外に出ようとしません。 
         でも半年ほどたって、やっとダンスバーティーにさそい出すことができました。 
         そのダンスパーティーの会場で、若者はなくなった恋人によく似た娘を見つけたのです。 
         すその長い白いドレスをきたその娘は、だれともおどらず、かべぎわにひっそりたっていました。 
        (本当によく似ているな。まるであの子が生きかえったようだ) 
         若者は吸い寄せられるように、その娘のそばにいきました。 
        「きみ、どうしておどらないの?」 
        「だって、知っている人がいないんですもの」 
        「よかったら、ぼくとおどってくれませんか?」 
         手をにぎると、娘は氷のようにつめたい手をしていました。 
         若者は、夢をみているような気持ちでしばらくおどったあと、娘をコーヒーに誘いました。 
         ひと休みする人たちで込みあっていたので、二人はたったままでコーヒーを飲みます。 
        「あっ!」 
         だれかがぶつかったひょうしに、娘のコーヒーがこぼれました。 
         白いドレス一面に、コーヒーのシミが出来てしまいました。 
         若者がすぐにふいてやりましたが、シミはどうしてもとれません。 
         すると突然、娘が帰りたいといいだしました。 
        「じゃあ、送っていくよ」 
        と、若者がいいましたが、娘は、 
        「いいえ、大丈夫よ。一人で帰れるわ」 
        と、断りました。 
         でも、若者はどうしても送っていくといいはって、娘と一緒に外に出ました。 
         そのとき、若者は娘がコートをきていないことに気がつきました。 
        「きみ、コートは? さむくないのかい?」 
        「大丈夫、さむくないわ」 
        と、娘は答えましたが、若者は自分のジャケットを脱いで、娘の白いドレスの上からきせてやりました。 
        「・・・ありがとう」 
         しばらくいくと、娘はふいにたちどまりました。 
         そのあたりには、大きな墓地があります。 
        「送ってくれてありがとう。でも、もうここでいいわ。すぐそこなの」 
         娘はそういって、ジャケットをかえそうとしました。 
         すると若者は、 
        「いいんだよ。さむいから家まできていけよ、あしたとりにくるから。じゃあな」 
        と、いって、走り去りました。 
         次の日、若者は娘と別れたところまできてみました。 
         ゆうべは暗くて気がつかなかったのですが、墓地の近くに人家などありません。 
        「おかしいなあ? たしかにここで別れたんだが」 
         そのとき、墓地の入り口に、自分のジャケットがかけてあるのに気がつきました。 
         それを見て、若者はふと思い出しました。 
         若者の亡くなった恋人は、この墓地に埋葬(まいそう)されたのです。 
        「も、もしかして・・・」 
         若者は墓地の管理人のところにとんでいくと、恋人の墓を開けてほしいとたのみました。 
        「どんなわけがあるのかね?」 
        「実は死んだはずの恋人に、昨日、会ったかもしれないのです」 
         管理人は若者の話を聞くと、首をかしげながらも墓をあけてくれました。 
        「あっ!」 
         墓の中を見た若者は、びっくりしました。 
         なくなった恋人は、白い死に装束のままひつぎの中に横たわっていましたが、その白い死に装束には、はっきりとコーヒーのシミがついていたということです。 
      おしまい 
         
          
         
        
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