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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > こんな暗い晩 
      2008年 8月23日の新作昔話 
          
          
         
  こんな暗い晩 
       むかしむかし、旅の商人(しょうにん)が、宿屋を見つけました。 
         雨のしょぼしょぼふる、暗闇の晩のことです。 
        「一晩、とめてください」 
         商人がたのむと、 
        「今日は満室なので相部屋になりますが、よろしゅうございますか?」 
        「はい、かまいませんよ」 
        「そうですか。では」 
         商人がとおされた部屋には、旅のお坊さんがいました。 
         商人がお坊さんにあいさつしてから、ふろに入ってくると、お坊さんがお金をかぞえていました。 
         小判がピカピカと、何枚も光っています。 
        (ずいぶん持っとるもんじゃのう。あれだけあれば、しばらくは働かなくとも) 
         商人は、お坊さんの小判がほしくなりました。 
         そこでその晩おそく、ねしずまったお坊さんを殺して小判をうばうと、宿屋から逃げ出しました。 
         そして商人は遠くの町へいって、そのお金で店をもちました。 
         店は繁盛(はんじょう)して、人をやとうほどにまでなりました。 
        「あんたもそろそろ、お嫁さんをもらってはどうだね」 
         商人は町の長者にすすめられて、嫁さんをもらいました。 
         やがて商人と嫁さんの間には、めでたく男の子がうまれました。 
         けれど男の子は三つになっても、口をきこうとしません。 
         ところが、しょぼしょぼと雨のふる、ある晩のこと、 
        「おとう、小便」 
        と、男の子がはじめてしゃべりました。 
         商人はよろこんで、 
        「おう、口をきいた。よしよし、すぐにさせてやろう」 
         男の子をだきかかえて、かわや(→便所)へつれていきました。 
         商人が、男の子におしっこをさせようとすると、 
        「おとう、こんな暗い晩のことだったなあ・・・」 
         男の子が大人のような声でいって、ゆっくりとふりかえりました。 
        「なっ、なにを言っているのだ。お前は、・・・あっ!」 
         男の子の顔を見た商人は、びっくりして声を出せなくなりました。 
         なんと男の子の顔は、いつの間にか、あのときの旅のお坊さんの顔になっていたのです。 
         お坊さんの顔をした男の子は、商人をにらみつけると言いました。 
        「宿屋でわしを殺したのも、こんな晩のことだったなあ。いまこそ、うらみをはらしてやる!」 
       お坊さんの顔をした男の子は、そのまま商人をさらって、どこへともなくいなくなったそうです。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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