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2009年 5月15日の新作昔話
フリーデルとリーゼ
ドイツの昔話 → ドイツの情報
むかしむかし、ドイツのある町に、フリーデルという男の子が住んでいました。
フリーデルはいつも、
「魔法が使えたらいいだろうな。だれか、魔法を教えてくれないかな」
と、思っていました。
そこである日の事、フリーデルは一人で暗い森に入って行くと、
「ねえ、だれか、ぼくに魔法を教えてよ!」
と、何度も何度も、叫んでみました。
すると森の奥から、血の様に真っ赤な目をした、真っ白な髪の毛のおばあさんが現れて来て言ったのです。
「魔法を習いたいのかい? なら、わたしと一緒においで。魔法を教えてあげるから」
おばあさんはフリーデルの手を引くと、森の奥へと入って行き、ジメジメとした沼地へやって来ました。
そこには、今にもくずれそうなボロボロの小屋がたっていました。
「さあ、ここがわたしの家だよ」
おばあさんの小屋には、リーゼという、かわいい女の子がいました。
家のテーブルの上には一匹のヒキガエルがいて、大きな目を緑色に光らせて、ランプの代わりをしていました。
かまどの上のなべの中には、何かの動物の腹わたが、血のスープでぐつぐつと煮てありました。
「さあ、このスープで夕ご飯にしよう。フリーデルや。一緒にお食べ」
フリーデルは気持ち悪くて、食べる気にはなれませんでした。
「あの、夕飯はいいです。ぼく、とても疲れていますから」
「そうかい、そうかい。では、屋根裏部屋にわらのベットがあるから、そこでゆっくりとお休み」
屋根裏部屋に行ったフリーデルは、
「気持ちの悪いおばあさんだけど、明日から魔法を教えてもらえるぞ」
と、胸をわくわくさせながら、ぐっすりねむってしまいました。
さて、食事がすんだおばあさんは、後片付けをしているリーゼにそっとささやきました。
「あの子、実にうまそうな子どもだねえ。リーゼ、明日はお日さまの登る前に起こしておくれよ。生きたままじっくりと丸焼きにして食べたいからね」
「はい、わかりました」
やがて後片付けを終えたリーゼは、おばあさんと一緒にベッドで寝ました。
おばあさんはいびきをかきながら、すぐに眠ってしまいましたが、リーゼは眠ろうとはせず、可愛い目からポロポロと涙をこぼしました。
(あんなにかわいい男の子が、生きたまま丸焼きにされるなんて! わたし、もう人間を食べるのは嫌!)
リーゼは決心すると、そっとベッドから抜け出しました。
そして屋根裏部屋に登ると、寝ていたフリーデルを起こしました。
「おや? リーゼ、どうしたんだい?」
「しーっ! おばあさんに見つかるから静かに! さあ、早く一緒に逃げるのよ! あのおばあさんは、悪い魔法使いなの。わたしは小さい時に町からさらわれて、ここで働かされながら、いろいろな魔法を教えられたわ」
「じゃ、きみも、魔法がつかえるんだね!」
「そうよ。魔法なら、わたしが教えてあげるから。だから、ぐずぐずしないで、早く行きましょう!」
二人は音をたてないように、ゆっくりと家を抜け出しました。
そしてリーゼは、指先をペロリとなめて自分のつばを家の扉につけると、
「つばよつば。わたしの代わりに、返事をしておくれ」
と、魔法の呪文を唱えました。
しばらくすると、おばあさんが目を覚ましていいました。
「リーゼや、どこにいるんだい? もうそろそろ、丸焼きの準備をする時間だろ?」
するとリーゼのかわりに、扉につけられたつばが返事をしたのです。
「はい、わたしはもう起きています。今から、丸焼きを作るためのまきを拾ってきますから、それまで休んでいてください」
「そうかい。なら、まきを拾ってきたら起こしておくれよ」
おばあさんはそう言って、また眠ってしまいました。
その間に、リーゼとフリーデルは、どんどん遠くへ逃げて行きました。
やがて、またおばあさんが目を覚ましました。
「リーゼや。かまどの火は燃えているかい?」
すると扉のつばが、また返事をしました。
「はい、でもまきがしめっていて、なかなか燃えないんです。どうぞ、もう少し休んでいてくださいね」
「そうかい。なら、火が燃えたら起こしておくれよ」
やがて、お日さまが登りました。
それに気づいたおばあさんは、びっくりして、ベッドから叫びました。
「リーゼ! お前は何をしているんだい! どうして、わたしを起こさなかったんだい!」
でも、返事はありません。
扉につけたリーゼのつばは朝日を浴びて、すっかりかわいてしまったのです。
「さては、逃げたね!」
飛び起きたおばあさんは、そばにあったほうきにペロリとつばをつけてまたがると、
「つばよつば。逃げた二人の所へ案内しておくれ」
と、魔法の呪文を唱えました。
するとつばをつけたほうきはさっと空中に舞い上がり、逃げた二人を追いかけました。
「ああ、いたいた。あんなところを逃げているよ」
悪い魔法使いのおばあさんが追いかけてきた事を気づいたフリーデルは、リーゼに言いました。
「大変だ、リーゼ。おばあさんがほうきに乗って追いかけて来るよ!」
「そうね。あのほうきからは、とても逃げられないわ」
リーゼは指先をペロリとなめると、自分とフリーデルのおでこにつばを付けて、魔法の呪文を唱えました。
「つばよつば。わたしとフリーデルの姿を、イバラとその実に変えておくれ」
するとたちまち、リーゼの姿は道ばたのイバラのやぶにかわりました。
リーゼのイバラには、たくさんの実を付いていて、その一番下になっている赤い実がフリーデルです。
悪い魔法使いは、さっそくイバラの実に目をつけました。
「おや、いいものがなっているね。どれ、一つ、ごちそうになろうかね」
悪い魔法使いはイバラのそばにおりて来ると、次々と実をもぎとって食べはじめました。
そして最後に、赤い実が残りました。
その実が、じつはフリーデルだということを、悪い魔法使いはちゃんと知っていたのです。
悪い魔法使いの枯れ枝のような指が、最後の実をもごうとした時です。
イバラのリーゼが、魔法の呪文を唱えました。
(つばよつば。わたしとフリーデルの姿を池とカモに変えておくれ)
するとイバラのやぶは大きな池に、赤い実はカモにかわりました。
そしてカモは、すいすいと、むこうに岸に泳いで行きました。
「逃がしはしないよ!」
悪い魔法使いは自分のおでこにつばをつけると、
「つばよつば。わたしをタカに変えておくれ!」
と、言って、自分を大きなタカの姿に変えると、するどい爪でカモに襲いかかりました。
すると突然、池に大波が盛り上がると、飛んでいるタカを池の底へ引きこもうとします。
「リーゼめ! わたしに歯向かうつもりかい!」
怒った悪い魔法使いは、魔法の呪文を唱えて、タカから大ワニの姿になりました。
「さあ、池の水も、カモも、全部飲み込んでやる!」
大ワニは、池の水をぐんぐん飲み干していきました。
そして池の水が全て無くなると、最後にパクリと、カモを飲み込んでしまいました。
「わはははは。未熟な魔法で、わたしに逆らうからこうなるんだよ」
大ワニが大笑いした、その時です。
大ワニの飲み込んだ水が、大ワニのお腹の中で火にかわったからたまりません。
ゴォーッ!
ものすごい音と一緒に、まっ赤に火ばしらが立って、ワニの体は、まっ二つに裂けてしまいました。
そしてカモは元の男の子フリーデルに、火は女の子リーゼの姿に戻りました。
「助かったんだね。リーゼ!」
「そうよ、フリーデル!」
二人は手をとって喜び合うと、無事に、自分たちの家に帰ってきました。
その後、二人はとても仲の良い友だちになったということです。
おしまい
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