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2010年 4月5日の新作昔話
売り声
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある日の事、きっちょむさんが打ち綿(うちわた)を持って、臼杵(うすき)の町へ売りに行ったのですが、久しぶりに町へ来たので、どの道順で売り歩いたらいいのか分かりません。
するとそこへ、一人のツボ売りがやって来て、
「ええ、ツボはいらんかなー、ツボはいらんかなー」
と、大声で売り歩いたのです。
「よしよし、あのツボ売りの後ろからついて行けば、うまい具合に町を一巡り出来るだろう」
そこできっちょむさんは、ツボ売りの後ろをついて歩きました。
そしてツボ売りが、大きな声で、
「ツボはいらんかなー」
と、言うと、きっちょむさんもその後から、
「ええ、打ち綿ー」
と、売り歩いたのです。
「ツボはいらんかなー」
「打ち綿―」
「ツボはいらんかなー」
さて、これを聞いた町の人は、くすくすと笑い出しました。
なぜなら、二人の売り声を続いて聞いていると、
「打ち割った、ツボはいらんかなー」
と、聞こえるからです。
これでは、ツボが売れるはずがありません。
それに気づいたツボ売りは、きっちょむさんにお金を渡して、帰ってもらう事にしたのです。
それから数日後、きっちょむさんはメガネを仕入れると、また町へ売りに行きました。
そしてその時、種売りが種を売り歩いているのに出会ったので、今度は、この種売りの後をついてメガネを売り歩く事にしたのです。
種売りが、
「種はいらんかなー」
と、言うと、きっちょむさんは、
「めがね―」
と、売り声をあげます。
「種はいらんかなー」
「めがね―」
「種はいらんかなー」
これを聞いた町の人は、またくすくすと笑い出しました。
なぜなら、二人の売り声を続いて聞いていると、
「芽がねえ(無い)、種はいらんかなー」
と、聞こえるからです。
これでは、種が売れるはずがありません。
そこで種売りもまた、きっちょむさんにお金を渡して、帰ってもらったのです。
さてそれから数日後、きっちょむさんはふるいを仕入れると、また町へ売りに行きました。
そしてその時は魚屋を見つけて、魚屋の後について売り歩いたのです。
まず魚屋が、
「魚、魚はいらんかなー」
と、言うと、きっちょむさんがあとから、
「ふるいー、ふるいー」
と、続けるのです。
「魚はいらんかなー」
「ふるいー」
「魚はいらんかなー」
これを聞いた町の人は、またまたくすくすと笑い出しました。
なぜなら、二人の売り声を続いて聞いていると、
「古い魚は、いらんかなー」
と、聞こえるからです。
これでは、魚が売れるはずがありません。
そこで魚屋もまた、きっちょむさんにお金を渡して、帰ってもらったのです。
でも、もしかするときっちょむさん、わざとやっているのかもしれませんね。
おしまい
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