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 2010年 12月24日の新作昔話
  
 医者の息子
 イランの民話 → イランの情報
  むかしむかし、ある村に、とても親切なお医者さんがいました。このお医者さんは、病人が出ると自分の息子を助手にして、どんなに遠い所にでも診察に出かけました。
 
 ある日の事、急病人が出たというので、お医者さんは息子を連れて出かけました。
 出迎えた主人は、お医者さんに病人の様子を説明しました。
 「まあ、遠い所をありがとうございます。さっそくですが、病人は、お腹が痛いと言って苦しんでおります」
 するとお医者さんは、病人を診察しながら言いました。
 「この病人は、ざくろを食べましたな」
 その通りだったので、主人はびっくりして答えました。
 「はい、先生のおっしゃる通りです。昨日、ほんの少し食べさせましたが、ざくろが体にさわったのでしょうか?」
 「かもしれませんね。ざくろは健康な人には腹痛の薬ですが、強い効果があるので、体の弱った人には逆効果です。・・・そして、ヨーグルトも食べていますね」
 主人は、またまた驚きました。
 「はい。ヨーグルトも少しばかり、口に入れてやりました。これも、体に悪かったのでしょうか?」
 「いいえ。少しなら問題ありません。ヨーグルトは万能の薬です。しかし、たくさん食べさせると体の弱った人には逆効果なので、元気になるまで食べさせない方が良いでしょう」
 お医者さんの息子は、病人の食べた物まで言い当ててしまう父親を、誇らしく思いました。
 
 お医者さんは病人の手当てを終えると、息子と二人で帰って行きました。
 帰り道の途中で、息子は父親に尋ねました。
 「お父さん、どうしてあの病人が、ざくろやヨーグルトを食べた事が分かったのですか?」
 すると父親は、笑いながら答えました。
 「お前でも、よく観察すれば分かることだよ。あの家の台所には、ざくろの皮が転がっていただろう。それに病人の口ひげに、ちょっぴりヨーグルトがくっついていたんだよ」
 「なるほど、ちっとも気づきませんでした」
 父親は、息子の肩を叩いて言いました。
 「医者と言うのは、観察が大事だ。病人本人の観察も大事だが、家の事や家族の様子を観察すれば、病気になった原因や治療方法が見えてくるのさ。お前も病人を治療するときは、よく観察するんだよ」
 
 次の日、昨日の病人の家から迎えが来ました。
 「先生、お願いでございます。病人がまた苦しみましたので、どうかもう一度診察していただけないでしょうか?」
 しかしその日は、どうしてもお医者さんの都合が悪かったので、父親の代りに息子が診察に出かける事になったのです。
 息子は、病人の脈をはかりながら言いました。
 「この病人は、ロバの肉を食べたね」
 「??? いいえ、病人にロバの固い肉など、決して食べさせたりいたしません」
 「そうですか。では、病人にお酒をたくさん飲ませましたね」
 「とんでもない! どうして病人にお酒なんか飲ませるのですか!」
 家の主人は、息子にきっぱりと言いました。
 息子は家に帰ると、さっそく父親にこの事を報告したのです。
 すると父親は、息子に尋ねました。
 「お前はなぜ、病人がロバの肉を食べたと判断したのかね?」
 「はい、病人の家に入る、ロバのくらが置いてありましたが、ロバはどこにも見えませんでした。わたしはてっきり、ロバを殺して家族で食べてしまったんだろうと判断したわけです。それで病人にも、少しは分けて食べさせているに違いないと」
 「それでは、なぜ病人がお酒を飲んだと判断したのかね?」
 「はい、病人は赤い顔をしていました。そして台所には、空になったお酒のビンがありました。そこで病人に、お酒を飲ませたに違いないと思ったのです」
 父親の医者は、がっかりした顔で息子の話を聞いていました。
 おしまい
 
  
 
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