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1月26日の百物語

牛の顔

けものつき

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 「櫻井園子」  櫻井園子エス代表 《櫻井園子キャンドルWEB販売》

にほんご(日语)  ・ちゅうごくご(中文) ・日语&中文

 むかしむかし、ある町奉行(まちぶぎょう)に、新田左近(にったさこん)という人が勤めていました。

 夏の暑い日の事、左近は筆記や計算などの仕事をしていましたが、朝から一日中働きづめだったので、すっかり疲れ果ててしまいました。
(どうも、気分がすぐれぬ。だが、がんばってもう一仕事せねば)

 夕方になり、仕事の終わった左近はやっとの思いで家に帰りました。
「やれやれ、今日はひどくくたびれた。茶でも飲んで一休みをしよう」
 そして家に入ってふと妻の顔を見ると、何と妻の顔が牛の顔だったのです。
(おのれ、妖怪めっ!)
 左近は思わず、刀のつかに手をかけましたが、
(待てよ)
と、今度は妻の隣にいる、女中の顔を見ました。
 すると女中も人間ではなく、赤馬の顔をしていました。
 そして子どもたちの顔を見ると、こちらは鬼の顔です。
 家の者全員が、人間の顔ではありません。
(これは、ただ事ではない)
 我にかえった左近は、刀をにぎりしめていた手を放しました。
(こんな時こそ、落ち着かねば。
 下手をすると、武士の名を恥ずかしめる事になる。
 冷静に、冷静に、冷静に、冷静に・・・)
 左近は奥の間に入ると、ふすまをぴったりと閉めて座禅をし、静かに目を閉じました。

 さて、主人の様子がおかしいのに気づいた妻は、心配になって左近に声をかけました。
「あの、ご気分でも、お悪いのですか?」
 左近が薄目を開けて妻の顔を見ると、やはり牛の顔です。
「何でもない。向こうへ、行っていろ!」
 左近は、しかるように言って妻を追い出すと、それから一時間ほど心を落ち着かせて、ゆっくりと立ち上がると奥の居間から出ました。
 そして恐る恐る家の者の顔を見てみましたが、どの顔も普段通りで少しも変わった所はありません。
「・・・・・・」

 その夜、左近は妻にしみじみと言いました。
「先ほどは、声を荒げてすまなかった。
 今日は暑いうえに、何かと忙しい仕事でくたびれ果てた。
 それで家の者の顔が、けものや鬼に見えたのであろう。
 まったく、刀を抜かなくてよかったわい」

 むかしはこの様な症状を、『けものつき』と呼んでいました。
 この左近の様に落ち着いた対応をすればよいのですが、びっくりした人が家族を斬り殺すという事がたびたびあったそうです。

おしまい

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