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福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 5月の江戸小話 > じしゃく宿
5月31日の小話
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じしゃく宿
宿場町(しゅくばまち→街道ぞいの宿屋が集まったところ)の町はずれに、貧乏な宿屋が三軒ありました。
たいていの旅人はそこを通り過ぎて、大きな宿屋に泊まってしまいます。
「何とか、はんじょうする方法はないものか?」
と、一軒の宿屋の主人は、考えていましたが、
「おおっ! 良い事がある」
と、ポンとひざを叩きました。
どこからか大きなじしゃくを買ってきますと、げんかんにすえつけました。
そして旅人がやって来ますと、細かくくだいた鉄くずをパラパラパラッと頭にふりかけます。
すると旅人はじしゃくに吸い寄せられて、すーーっと、宿屋に入って行くのでした。
それを見ていた、向かいの宿屋の主人は、
「こいつは、うまい考えだ」
と、こちらも同じく、大きなじしゃくをすえつけました。
旅人がやって来ますと、二軒の家で勢いよく鉄くずをふりかけます。
すると、おかしな事がおこりました。
旅人は両方のじしゃくに吸い寄せられて、どちらへも動けず立ちつくしたまんまです。
それを見ていた別のもう一軒の小さな宿屋の主人がはたきを持って来ると、旅人の頭の上の鉄くずを払い落として、さっさと自分の宿屋へ連れて行ってしまいました。
おしまい
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