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福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 10月の江戸小話 > 万の字
10月19日の小話
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万の字
寺子屋(てらこや)へ初めてかよった息子が、先生から《一、二、三》という字を教わって帰ってまいりました。
家へ帰ると、親父さんに言いました。
「お父っつぁん、もう、先生はいらないよ」
「そいつはまた、どうしてだ?」
「それじゃあ言うけど、まず一という字は、こう一本ひく。二という字は、こう二本ひく。三という字は、こう三本ひく。何の事はない。かんたんなもんだ。習わなくても、あとは全部わかったよ」
「そうかそうか、えらいもんだ」
親父は大変喜んで、次の朝になると用事をいいつけました。
「万八(まんはち)どのを呼びたいから、ひとつ手紙を書いておくれ」
「はい」
息子はそれから部屋に入ったきり、昼になっても出てきません。
「どうしたのだろう?」
と、親父は息子の部屋をのぞいて、
「どうじゃ、もう手紙は出来たか?」
と、聞くと、息子は、
「いいえ、まだまだです。ようやく五百ばかりひきましたが、万ひくのには明日まではかかります」
「・・・?」
親父がのぞいてみると、息子は紙の上に一の字ばかり、いくつもいくつもひいておりました。
おしまい
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