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3月28日の日本民話
月見草の嫁
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むかしむかし、ある山奥の村に、一人の若い馬子(まご)が暮らしていました。
馬子とは、馬を引いて人や荷物を運ぶ仕事をする人です。
一日の仕事を終えた馬子が、家で一休みをしていると、
トン、トン、トン。
と、誰かが、家の戸を叩きました。
「はて? 今頃、誰だろう?」
馬子が戸を開けてみると、そこにはきれいな娘さんが立っていました。
娘は馬子に、ペコリと頭を下げて言いました。
「どうか今晩一晩、ここに泊めて下さい」
それを聞いた馬子は、少し困った顔で言いました。
「泊まると言っても、おれは貧乏で、お前さんに食わせる飯もないから」
「大丈夫。ご飯ぐらい、私が何とかします。お掃除も、お洗濯もします。ですから、どうか泊めて下さい」
そこまで言われると、断る事が出来ません。
「そうか、なら、中に入れや」
馬子が娘を家に入れてやると、娘はさっそく掃除や洗濯を始めました。
そしてどこからか持って来た材料で晩ご飯を作ると、馬子に差し出しました。
それは今まで食べた事がないほど、おいしい物でした。
すっかり満腹になった馬子は、その場にごろんと横になると娘に言いました。
「うまい飯を、ごちそうさま。おれは仕事が早いから、もう寝るからな。お前は好きな時に、出て行っていいぞ」
さて次の日の晩、馬子が仕事から帰って来ると、娘はまだ家にいたのです。
「お前、出て行かなかったのか?」
「はい。さあ、晩ご飯が出来ていますよ」
そして次の日も、そのまた次の日も娘は家を出て行かず、一生懸命に家の仕事をしました。
そのうちに、馬子は娘がすっかり気に入りました。
「ああ、こんな良い娘が、おれの嫁だったらなあ」
するとそれを聞いた娘が馬子の前に正座をして、深く頭を下げて言いました。
「あなたさえよければ、どうか私を嫁にして下さい」
「そうか。お前がその気なら、ぜひともおれの嫁になってくれ」
こうして二人は、夫婦になったのです。
さて、それからしばらくたった、ある日の事です。
馬に食べさせる草を刈っていた馬子は、その草の中に、きれいな月見草の花が一本混ざっているのに気がつきました。
「きれいな花だな。そうだ、嫁の土産に持って帰ろう」
そして、家に帰った馬子が、
「おーい、きれいな花があったぞ」
と、嫁に言ったのですが、 しかしいつもはすぐに出迎えてくれるはずの嫁が、今日は出て来ないのです。
「おかいしな。どこに行ったのだろう?」
馬子が家の中を探していると、嫁は台所で朝ご飯を作りかけたまま倒れていたのです。
「おい! どうした!? どこか具合でも悪いのか!?」
馬子があわてて抱き起こすと、嫁は小さな声で言いました。
「・・・あなた。
実は私は、月見草の花の精なのです。
毎朝、あなたの働く姿を見ているうちに、あなたの嫁になりたいと思うようになりました。
そしてその思いがかなって、今日までとても幸せでした。
ですが、あなたに刈られてしまったので、私の命もこれまでです。
短い間でしたけれど、優しくして下さってありがとう」
嫁はそう言うと馬子に抱かれた姿のまま、煙の様に消えてしまったのです。
おしまい
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