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8月1日の日本民話
北風長者
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※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 「ぐっすり眠れる優しいおやすみ朗読」
むかしむかし、大金持ちとして有名な大阪の鴻池(こうのいけ)の長者と兵庫のタコ取り漁師が、四国の金毘羅道中(こんぴらどうちゅう)で親しくなりました。
あれこれと話をするうちに、鴻池の長者がたずねました。
「わしの屋敷はせまいので、どうもむさ苦しくてかなわん。あなたさまの所は、坪はどれほどありますかな?」
鴻池の長者は、屋敷の広さは何坪あるかと聞いたのですが、タコ取りはタコつぼの数を聞いているのだと勘違いをして、
「へえ、つぼなら、おそらく千ほどは」
と、答えたのです。
すると、ちょっと驚いた鴻池の長者は、さらにたずねました。
「ほほう、千とは広いですな。して、わしの所の屋根は瓦ぶきですが、お宅は?」
すると、タコ取りは、
「わしの所は、胡麻(ごま)の柱(はしら)にかやの屋根、月星(つきほし)をながめる、といったところですわ」
と、答えました。
すると鴻池の長者は、いよいよ驚いて感心しました。
「ほほう、五万本の柱とは、大変な物ですな。それに月や星をながめられるとは、えらく風流(ふうりゅう)な造りで」
すると今度は、タコ取りが言いました。
「わしの家に息子があるが、釣り合うた嫁が無くて困っとります」
タコ取りは、自分の家は貧乏なので、来てくれる嫁がいないと言ったのですが、またまた鴻池の長者は勘違いです。
「確かに、それほどの家柄なら、なかなか釣り合うた者はいないでしょうな。しかし幸い、うちには娘があります。よろしければ、わしの娘を嫁にもろうて下さいな」
これには、タコ取りもびっくりです。
さらに鴻池の長者は、タコ取りに言いました。
「あとで、うちの番頭をうかがわせますので、あなたさまのお名前を教えて下され」
この時タコ取りは、鴻池の長者がえらい勘違いをしていると気がつきましたが、今さら自分が貧しい漁師だとは言えません。
そこでタコ取りは、口から出まかせに、
「わしは、北風です」
と、答えたのです。
こうして二人は、金毘羅参りをすませて別れました。
さて、大阪に戻った鴻池の長者は、番頭に命じました。
「兵庫にいる、北風と言う名の網元を見て来てくれ」
「はい」
そして兵庫に出かけた番頭は、海の近くの町で出会った人にたずねました。
「あの、北風さんのお宅を、ご存じないでしょうか?」
「北風?」
聞かれた人は一瞬首をかしげましたが、たずねているのが北風の吹き荒れる漁師町の事だと思って答えました。
「ああ、北風なら漁師の道具を一揃え干してあるから、すぐにわかるでしょう」
それを聞いた番頭は、町の人でも知っているくらいだから、これはよほどの網元だと思って、
「これなら、わざわざ行く事もあるまい」
と、鴻池の長者に報告したのです。
「北風さんは、とても大きな網元でした」
「そうか。なら、すぐに嫁入りの支度をしないとな」
さて、いよいよ嫁入りの日となりました。
長者の娘は嫁入り道具を荷馬車に山ほど積んで、北風の家に向かいました。
そして着いてみると、確かにタコつぼを千ほど並べてありましたが、北風の家は胡麻粒(ごまつぶ)を取る胡麻の木の柱に、むしろを敷いただけのあばら屋で、屋根にはたくさんの穴が開いているので、月星をながめる事が出来たのです。
それを見たお供の人は、
「なんだこれは! 聞いた話しと、全く違うではないか! お嬢さま、すぐに嫁入りをやめましょう」
と、娘に言いましたが、娘は首を横に振って、
「いいえ。この縁談は、お父さまが持って来たものです。ここに嫁ぐのが、わたしの持って生まれたご縁なのでしょう」
と、そのままタコ取りの家に嫁入りをしたのです。
その後、タコ取りの家は嫁の持って来たお金を元手に大きな船を買い、船主になって漁を始めました。
そしてタコ取りは一生懸命に働いて、持ち船をどんどん増やしていきました。
やがて貧乏だったタコ取りは、本当の長者になったのです。
おしまい
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