|
|
福娘童話集 > きょうの世界昔話 > 1月の世界昔話 > ワタの花と妖精
1月5日の世界の昔話
ワタの花と妖精
アメリカの昔話 → アメリカの国情報
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 「眠りのねこカフェ」
むかしむかし、アメリカの沼地(ぬまち)に一人の妖精(ようせい)がいました。
この妖精は、糸をつむぐ名人です。
妖精の糸車は、朝から晩までクルクルと回っています。
妖精のつむいだ糸は小さなクモの糸よりも細くてしなやかで、とってもつやがありました。
この糸を使うと、それはそれは美しい布が出来るのです。
ですから妖精の女王が舞踏会(ぶとうかい)を開く時には、みんながこの素晴らしい糸を注文するのでした。
妖精の使っている針は、おじさんのクマンバチの針でした。
クマンバチは、いつも文句ばかり言っていたので、みんなからきらわれていました。
けれどもおじさんは、死ぬ時に妖精を呼んで、
「わたしが死んだら針を抜き取って、お前が使っておくれ。そして何か、役に立つ事をしておくれ」
と、言ったのです。
妖精の住む沼地には、クマンバチよりももっと恐ろしい動物がいました。
それは、大グモです。
その大きな体は、小鳥くらいもあります。
大グモの体は、赤と黄のだんだらもように染まっていました。
この大グモも、糸をつむいでいました。
大グモの糸は銀色に光って、なかなかにきれいでした。
けれども妖精の細くてしなやかな糸と比べると、まるで荒なわ様に見えました。
大グモは自分より美しい糸をつくる妖精が、憎らしくてなりません。
ある日、妖精は糸をつむぎながら、ふと上を見上げました。
すると大グモが頭の上におりて来て、今にも自分を食べようとしているのです。
妖精は、糸車と針をかかえて逃げ出しました。
すると大グモは長い足をのばして、妖精を追いかけてきます。
妖精は、穴から頭を出しているネズミを見つけました。
「ネズミさん、ネズミさん。入れてちょうだい! 大グモに追いかけられているんです!」
ネズミは大グモと聞いて、震えあがりました。
そしてあわてて頭を引っ込めたかと思うと、パタンと戸を閉めてしまいました。
仕方なく妖精は、また走り出しました。
間もなく、カエルを見つけました。
「カエルさん、カエルさん。助けてちょうだい! 大グモに追いかけられてるんです!」
けれどカエルは、知らん顔です。
可愛そうに妖精は、もう息が切れて死んでしまいそうでした。
そのときホタルが、お尻のちょうちんをつけてやって来ました。
「ホタルさん、お願いです。助けてちょうだい! 大グモに追いかけられているんです!」
するとホタルは、
「わたしのちょうちんに、ついていらっしゃい。すぐに良いところへ連れて行ってあげますよ」
と、言いました。
ホタルの後について、妖精は美しいモモ色の花の咲いている野原ヘとやって来ました。
「さあ、早くあのきれいな花の中ヘ飛び込みなさい!」
ホタルの言葉に、妖精はありったけの力をふりしぼって花に飛び込みました。
ところが大グモはすぐに追いつくと、モモ色の花の一番外側の花びらにしがみつきました。
妖精はクマンバチの針をにぎって、大グモの足をチクンと刺しました。
ビックリした大グモは、花びらと一緒に地面に落ちました。
モモ色の花は中に妖精を入れたまま、ピッタリと花びらを閉じました。
起き上がった大グモは、これを見てカンカンに怒りました。
そしてモモ色の花のまわりに糸をはりめぐらして、妖精が出て来るのを待つ事にしました。
次の日も、大グモはその糸の上で妖精が出て来るのを待ちました。
ところが一日中待っても、妖精は出て来ませんでした。
次の日も、また次の日も、大グモは待ちました。
そのうちに、花びらが一枚一枚落ち始めました。
大グモは、
「いよいよ、妖精が食べられるぞ」
と、舌なめずりをしながら花に一歩近づきました。
とうとう、最後の花びらが落ちました。
それでも、妖精は出てきません。
大グモはだまされたと思って、カンカンに怒りました。
そしてあまりにも怒りすぎて、大グモは死んでしまいました。
さて、花の中に飛び込んだ妖精は、花の奥にあるタネの袋の中に隠れていたのです。
そしてやっぱり、糸車を忙しく回していました。
三日たつと、妖精はタネの袋から飛び出しました。
そしてタネの袋から、細くてしなやかな糸があふれ出ました。
それは、妖精のつくった糸でした。
その糸は、タネの袋からふさになってぶらさがりました。
やがて人間がやって来て、妖精のきれいな糸を持って帰りました。
妖精は、モモ色の花がとても気に入りました。
それからはずっと、モモ色の花の中で糸車を回しています。
そして今でも妖精はワタの花の中にいて、糸をつむいでいるのです。
おしまい
|
|
|