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1月8日の百物語
大蛇を改心させたお経
・日本語 ・日本語&中国語
むかしむかし、とても欲張りな長者がいました。
ある日の事、この長者の屋敷が火事になり、長者は一度は外へ逃げ出したものの、
「ああっ、わしとした事が! 命よりも大切な金を持って出るのを忘れてしまった!」
と、再び燃え盛る屋敷に飛び込んで、そのままお金と一緒に焼け死んでしまったのです。
長者の奥さんは何とか助かったものの、夫も家もお金も全てを失った事で心の病気になり、村はずれの沼に身を投げると恐ろしい大蛇へと姿を変えてしまったのです。
大蛇に姿を変えた奥さんは村人たちの夢枕に現れて、こんな恐ろしい事を言いました。
「毎年、一軒の家に白羽の矢を立てる。
白羽の矢が立った家の娘を、生け贄に捧げろ。
娘を捧げなければ、村を泥に沈めてしまうぞ」
それからと言うもの、村人たちは泣きながら娘を沼に沈めたのです。
ところでこの村には、もう一人の長者がいました。
以前は大変なお金持ちでしたが、人の良さから人にだまされて今ではすっかり落ちぶれていました。
ある年の事、この長者の家に白羽の矢が立ったのです。
「誰か、身代わりになってくれる娘はいないのか。娘が助かるのなら、残った財産を全て投げ出してもよい」
長者がそう言うと、以前に長者から恩を受けた男がやって来て言いました。
「ならば、わたしが身代わりになってくれる娘を探してまいりましょう」
男は長者から大金をあずからると、身代わりとなる娘を探しに村を出て行きました。
男が村を出て何日もたちましたが、しかしいくら大金をくれると言っても身代わりで死のうと言う娘が見つかるはずがありません。
とうとう長者の娘が沼に沈められる前の晩、男が一夜の宿を頼んだ家では母親の重い病気が治る願掛けに娘がお経を写していました。
とても美しい娘なので、長者の娘の身代わりにぴったりです。
そこで男は正直に事情を話し、長者の娘の身代わりになってほしいと言いました。
これを聞いた病気の母親はひどく怒って男を追い出そうとしましたが、娘が男に言ったのです。
「そういう事なら、どうかわたしを身代わりにしてください。長者さまからお金をいただければ、母に薬を買ってあげられますから」
そして書き写したお経を着物のたもとに入れると、男と共に長者の村へと急ぎました。
身代わりの娘は長者の娘の着物を着ると、長者に言いました。
「長者さま、母の事をくれぐれもよろしく頼みます」
娘が大蛇のいる沼へ行くと、やがて沼の水面が波立って大蛇が姿を現しました。
娘は覚悟を決めると、着物のたもとに入れてきたお経を取り出して読み始めました。
するとどうした事か、大蛇は急に動かなくなり、娘があげるお経を静かに聞き始めたのです。
やがて大蛇は、まっ赤な目から大粒の涙を流して言いました。
「あなたのお経を聞いて、心の病が消えました。これで成仏出来ます。ありがとう」
大蛇はそのまま、沼の中へと消えてしまいました。
それからは沼に大蛇が現れる事はなくなり、落ちぶれていた長者の家にも運が向いてきて、再び元の様な大金持ちになったのです。
そして大蛇を改心させた孝行者の娘は長者からもらった大金で良い薬を買うと、元気になった母親と一緒に末長く幸せに暮らしたのでした。
おしまい
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