むかしむかし、旅の商人の五助(ごすけ)が、仕事で九州の阿蘇山(あそざん)の奥へと出かけました。 五助は、いつの間にか道を間違えたらしく、岩だらけのところに出てしまいました。 「さあ、困ったぞ。本格的に、迷ってしまった」 「はて? ・・・そういえば、確かこの辺りにネコ岳(だけ)という山があって、化けネコの親玉がいると聞いた事がある。 ・・・捕まったら、大変だ」 五助はその場を離れようと、方向もわからないまま先を急ぎました。 「ありがたい。あそこで泊めてもらうとしよう」 「すみません。旅の者ですが、今夜泊めてもらえないでしょうか?」 「どうぞ、おあがりなさい」 と、座敷へ通してくれました。 五助が荷物をおろして一息つくと、さっきの美しい女が言いました。 「お風呂が、わいております。 そこで五助がお風呂に行こうとすると、廊下ですれ違った別の女が、ひどく驚いた顔で言いました。 「五助どん?」 「むかし、五助どんの家の近くにいた三毛ネコです。 わたしは年を取ったので、ネコ岳の化けネコのかしらに仕えています」 「そんな事よりも、早くお逃げなさい」 五助は三毛ネコの女に裏口を教えてもらい、命からがら逃げ出しました。 「まてぇー!」 女たちは次々と、おけのお湯を五助にかけようとしました。 お湯が少し足にかかりましたが、 五助は転げる様に山を下って、ようやく町へ逃げ帰りました。 「あの時、もしも風呂に入っていたら、おれは今頃ネコに・・・」 それからというもの、五助は二度とネコ岳には近づきませんでした。 おしまい イラストレーターの夢宮 愛さんが、その後のお話と、「もし、五助さんにお湯がかかっていたら」のおまけエンディングを描いています。 |
|