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6月1日の百物語
佐賀の化けネコ
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※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 「つれづれ居士」 つれづれ居士
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投稿者 ふわふわスリープ
むかしむかし、世の中が豊臣(とよとみ)から徳川(とくがわ)に移ると、佐賀の殿さまも、竜造寺築前守(りゅうぞうじちくぜんのかみ)から鍋島直茂(なべしまなおしげ)に代わり、裏舞台では両家の激しい権力争いが火花を散らしていました。
三代目、鍋島家茂(なべしまいえしげ)が城主の頃、ご城下に竜造寺家(りゅうぞうじけ)の跡継ぎである又一郎(またいちろう)という目の見えない若侍が、母親のおまさとひっそり暮らしていると、お城から殿さまの碁(ご)の相手に来るようにとのお達しがありました。
目が見えないながらも碁の達人であった又一郎は、長年の恨みをせめて碁ではらそうと心に決めて、城へ出かけていきました。
ところが又一郎は、そのまま行方不明になってしまいました。
心配のあまり夜も眠れないおまさは、家族同様に可愛がっていたコマという名の黒猫に、又一郎を探してくれるように頼みました。
「ニャー」
コマは身をひるがえして、城へと走り出しました。
それから何日かが過ぎた雨の降りしきる夜ふけに、ずぶぬれになったコマが又一郎の生首をくわえて帰ってきたのです。
「・・・・・・!」
そのくやしそうな我が子の顔を見るなり、母は碁の相手というのは表向きの理由で、本当は又一郎を亡き者にするのが目的だった事を知ったのです。
泣いて泣いて、泣きつかれたおまさは、思いつめた声でコマを呼ぶと、いきなり自分ののどもとに小刀を突き立て、
「コマよ、このしたたる血を吸って、母の恨みをはらしておくれ」
そう言い残して、死んでしまいました。
さて、桜の花が美しく咲きそろった春、お城の中庭では花見が開かれていました。
殿さまは大のお気に入りのおとよをそばにしたがえて、ご機嫌の様子です。
その時、突然に冷たい風が吹きすぎたと思うと、城中の灯がいっせいに消えて、女たちの悲鳴がおこりました。
家来の一人が急いでかけつけると、腰元(こしもと)の一人がのどを引き裂かれて、血まみれになって死んでいたのです。
この日から、怪我人や死人が毎日の様に出るようになりました。
そしてついに殿さままでが原因不明の病いに倒れると、城中でいろんなうわさが飛び交う様になりました。
殿さまと又一郎の碁の話は、家老(かろう)の小森半左衛門(こもりはんざえもん)が仕組んだもの。
碁に負けた腹いせに殿さまが又一郎を切り殺すと、小森半左衛門が腹心に命じて、その死体を人気のない森に埋めた。
そしてその仕返しに、竜造寺家の黒猫が城に忍び込んでいる。
と、言うのです。
このうわさを耳にして一番恐れたのは、もちろん家老の小森半左衛門です。
そこですぐさま、小森半左衛門は槍の名人の坂本兵衛門(さかもとひょうえもん)を殿の見張り役に命じて、自分はどこかへ姿をくらましてしまいました。
兵衛門(ひょうえもん)は、この役目について間もなく、奇妙な事に気付きました。
いつも夜中になると決まって眠気をもよおし、翌朝になると殿の病状が悪化しているのです。
そこで次の夜、兵衛門が眠気覚ましの薬草を口に含んで眠ったふりをしていると、どこからか現われたおとよが殿の居間に入って行きました。
そしてそのすぐ後、殿の苦しむ声が聞こえてきました。
「何と、おとよの方こそが、曲者(くせもの)であったか」
兵衛門は、おとよが居間から出てきたところを、
ブスリ!
と、槍で胸を突き刺しました。
「フギャーーー!」
おとよは猫の様な悲鳴を上げると、ものすごい形相で兵衛門をにらみつけて、胸に槍を突き刺したままどこかへ消えてしまいました。
この騒動に驚いて集まってきた家来たちが、ふと庭の池を見ると、家老の小森半左衛門の裸の死体が浮かんでいたのです。
そしてその頃、城下にある竜造寺家の墓の前でも、兵衛門の長い槍が突き刺さった黒猫が死んでいたという事です。
おしまい
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