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騎士と水の精

騎士(きし)と水の精(せい)
ドイツの昔話 → ドイツのせつめい

 むかしむかし、りっぱなお城(しろ)に一人の騎士(きし)が住んでいました。
 騎士(きし)は剣(けん)で戦うのが強いだけでなく、誰(だれ)にでも親切でやさしいので、村の人たちからとても愛されていました。
 ある朝のこと。
 騎士(きし)が教会へおいのりをしに出かけようと、ウマに乗って森の道へはいったときです。
 湖のそばの石に、緑色のドレスを着た女の人がすわっているのを見つけました。
 金色の髪(かみ)をそよ風になびかせて、ほほえみながら小鳥たちのさえずりに耳をかたむけています。
 騎士(きし)は、あまりの美しさにウマをおりて、女の人に声をかけました。
「こんなさびしいところで、何をしているのですか?」
 女の人は騎士(きし)を見あげると、愛らしい笑顔を見せました。
「はい。あなたをお待ちしておりました。わたしは今までずっとあなたのそばにいて、いくさのときも剣(けん)のけいこをしているときも、あなたをお守りしてきました」
 騎士(きし)は、喜びで胸(むね)がいっぱいになりました。
「確(たし)かに、ぼくはこれまで何度となく危(あぶ)ない目にあってきました。でも、そのときには、ほんとうに不思議な力で守られていると感じていました。これから先もぼくを守ってくれますか? あなたのように美しい人がいつでもそばにいてくれたら、もうぼくはこわいものなどありません」
 女の人は、やさしくうなずいて答えました。
「もちろんお守りいたします。けれど、一つだけ約束してください。私(わたし)と結婚(けっこん)してほしいのです。もしほかの女の人と結婚(けっこん)したら、あなたは死んでしまいます」
「ほかの女の人と結婚(けっこん)するなんて、考えられない。今すぐにでも、あなたと結婚(けっこん)したいのに」
 騎士(きし)がそう言うと、女の人はうれしそうに笑って、湖の色のように深い緑色の指輪(ゆびわ)をとり出して、騎士(きし)の指にはめました。
「私(わたし)に会いたくなったら、この指輪によびかけてください。でも、それはあなた一人きりのときにしてくださいね」
 騎士(きし)は約束すると、女の人と別れて教会へ一人でウマを走らせました。
 教会でおいのりをささげると、騎士(きし)はすぐに自分の城(しろ)にもどりました。
 そして部屋にはいると、誰(だれ)もはいって来ないようにカギをかけて、そっと指輪に言いました。
「ぼくの愛する人よ。姿(すがた)を見せておくれ」
 するとたちまち、美しい女の人が姿(すがた)をあらわしました。
 騎士(きし)と女の人は、二人だけの結婚式(けっこんしき)をあげました。
 その次の日から、騎士(きし)は剣(けん)のけいこのときも、遠く戦いに出かけるときも、けがひとつせずにすみました。
 それに、宿屋で一人になり指輪にむかってよびかけると、騎士(きし)の妻(つま)は上等のワインや焼きたてのパンを持って、姿(すがた)をあらわしてくれました。
 森に迷(まよ)いこんだときには、指輪に耳をあてると、
「そのまま、まっすぐ。そこを右にまがって」
と、道を教えてくれます。
 騎士(きし)は心から妻(つま)に感謝(かんしゃ)し、二人は誰(だれ)にも知られないまま、仲良く楽しい月日を過(す)ごしました。
 ある日のこと、王さまのたいかん式がありました。
 騎士(きし)はそのお祝いの席で、「剣(けん)の馬上試合を見せよ」と、お城(しろ)によばれました。
 騎士(きし)がウマに乗って戦う姿(すがた)はりりしく、王さまは一目で騎士(きし)を気に入り、こう言いました。
「そなたに奥方(おくがた→おくさん)がないのなら、ぜひ、わたしの姪(めい)と結婚(けっこん)してやってほしい」
「・・・・・・」
 騎士(きし)は、こまってしまいました。
 騎士(きし)には妖精(ようせい)の妻(つま)がいて、その妻(つま)との約束で、ほかの女の人と結婚(けっこん)したら死んでしまうからです。
 でも騎士(きし)として、王さまのたのみをことわることも出来ません。
 騎士(きし)は、知り合いの大臣に相談しました。
 すると大臣は、騎士(きし)に妖精(ようせい)とわかれるようにせまりました。
 それで騎士(きし)は、とうとう王さまの姪(めい)と結婚(けっこん)する決心(けっしん)をしました。
 そのとたん、騎士(きし)の指でパチンと緑色の指輪がわれて、床(ゆか)に落ちました。
 けれど、誰一人(だれひとり)そのことには気がつきませんでした。
 騎士(きし)と王さまの姪(めい)との婚礼(こんれい)の日がやって来ました。
 大広間には、着かざった人が大勢(おおぜい)集まり、二人の結婚(けっこん)をお祝いしました。
 すると、どこからふいて来たのか、大広間のまん中に風がふき、その風の中にうす緑色のドレスを着た騎士(きし)の妻(つま)が姿(すがた)を見せました。
 頭には木の葉であんだかんむりをかぶり、裸足(はだし)の白い足にも、ツタかざりをつけています。
 妻(つま)は、静かに騎士(きし)の前を通り過(とおりす)ぎました。
 その顔はかなしみにあふれ、輝(かがや)いていた緑色の瞳(ひとみ)も暗くしずんでいました。
 それを見た騎士(きし)は、思わず立ちあがってさけびました。
「みなさん! 実はぼくには妻(つま)がいたのです。心も姿(すがた)も美しい妻(つま)です。でも、ぼくはその愛する妻(つま)との約束を破(やぶ)り、その罰(ばつ)で今から死ななくてはなりません」
 妻(つま)はその言葉を聞くと、ニッコリほほえんで、スーッと姿(すがた)を消しました。
 そのとたん、騎士(きし)はバタリとたおれて、そのまま死んでしまったのです。

おしまい

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