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福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 1月の日本昔話 > 幽霊のそでかけ松
1月4日の日本の昔話
幽霊のそでかけ松
むかしむかし、漁師が川に船を出して、夜釣りをしていました。
ところがどうした事か、今日は一匹も釣れません。
「今夜は、あきらめて帰るとするか」
漁師がそう思っていると、釣りざおが突然弓なりになりました。
めったにない、大物の手応えです。
喜んで引き上げると、
「・・・へっ? ギャァァァーー!」
釣り糸の先には、若い娘の亡骸(なきがら)が引っかかっていました。
「わわぁ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
漁師は亡骸を捨てるわけにもいかず、船に引き上げました。
「ああ、可愛そうに・・・」
漁師は娘の亡骸を近くのお寺に運んで、和尚(おしょう)さんにとむらってもらいました。
すると次の晩から、お寺の古い松の木の下に、あの若い娘の幽霊が現れ始めました。
「手厚くほうむってやったのに、まだ、この世にうらみでもあるのだろうか?」
和尚さんが不思議に思っていると、娘の幽霊が現れて、
「先日は、ありがとうございました。迷わず、あの世へ行きいのですが、心残りが・・・。
一言、お聞き下さいませんか?」
かすかな声で、言いました。
「何なりと、話しなさい」
「はい。実は好きな人の元へ、お嫁(よめ)に行く事になっていたのですが、家が貧しい為、嫁入りの着物が作れないでいました。
その為、せっかくの縁談(えんだん)が、壊れてしまったのです」
「・・・それはさぞ、辛かったろう。
よしよし、今となっては手遅れながら、わしが嫁入りの着物をそろえてやろう」
和尚さんが言うと、娘の幽霊は涙を拭いて、フッと消えさりました。
あくる日、和尚さんは約束の着物を買って来て、古い松の枝にかけておきました。
すると、夜中に娘の幽霊が現れて、着物を着替えて行ったのでしょう。
嫁入りの着物は消えて、代わりに娘がおぼれて死んだ時の着物のそでが、枝にかけられていました。
その時からこの松は『幽霊のそでかけ松」と、呼ばれる様になったのです。
おしまい
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